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    分野の垣根を越えて語る、ブラン…

山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/
La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2023.11.06
column

「投資とワイン」対談
分野の垣根を越えて語る、ブランド化へのプロセス

山梨県甲州市に1937年に創業、フランスの国際ワインコンクールで2003、04年と銀賞を2年連続受賞し、世界で初めて認められた日本ワインの老舗メーカー、勝沼醸造。本社2階を会場に、勝沼醸造の有賀 淳氏と三菱UFJアセットマネジメントの代田 秀雄氏による、「投資とワイン」のセミナーが開催された。

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投資とワイン、そこには一見何の共通点もないように思われるが、登壇者のひとりである三菱UFJアセットマネジメント 常務取締役の代田秀雄氏はこのセミナー開催の意義をこう語る。

「投資と聞くと多くの人はデイトレードのようなスピード売買を想像して萎縮してしまうと思いますが、ワイン文化が非常に長い歴史を経ていまに至るように、投資や運用も短期間で利益を求めるのではなく、時間をかけて相場と向き合うことで、最終的には多くの人にとってよい結果につながることをお伝えしたい。そのためのセミナーを、日本ワイン界で86年という歴史をもつ勝沼醸造で開催することは、大変意義のあることだと思いました」。

代田氏がいま、それを伝えたい背景には2024年1月1日から始まる新NISA制度がある。

新NISA制度とは、生涯の投資額の非課税枠が最大1,800万円までとなり、また、期間も無期限となる。家計の金融資産のうち現預金の内訳はアメリカが約12.6%に対し日本は約54.2%(注1)、その総額は1,000兆円を超えるといわれる。物価上昇、円安などの現状が続く限り現預金の価値は下がる傾向と考えられる。新NISA制度を正しく理解して、一部の投資家だけでなく一般家庭が少額からでも独自の資産形成を考えることは必至である。

「世界に認められた勝沼醸造にも、じつは手頃でおいしい2,000円台のワインがあります。金融商品も1,000円程度から運用できるものもあり、メーカー同士でそういったモノづくりのこだわりと、それをお客様のもとにどう届けるか、最後は文化の創造というテーマも含めて、本日は有賀淳さんと対談したいと思います」と代田氏。

■投資とワインに共通する3つテーマ
「製造」、「流通」、「文化」

まずは「製造」のこだわりについて、勝沼醸造 営業部の有賀淳氏から語られた。

勝沼醸造のこだわりは、なんといっても地元勝沼の地に1300年根付くブドウ品種、甲州。奈良時代から育まれてきた甲州は「先人たちから伝えられた知恵のかたまりだ」と有賀氏は言う。欧米に追随するワイン用品種ではなくいま流行の生食用ブドウでもなく、1300年かけて伝えられた甲州をさらに100年先へ、長期的にブランディングして次の世代にどう伝えていくか、その責務を担いながら、ワイン造りと向き合っている。

“メーカー”というと有形のものを作り出すイメージだが、無形ながら「金融商品を作る」という意味で、勝沼醸造同様メーカーの位置づけである三菱UFJアセットマネジメントの代田氏は、「金融商品作りのこだわりは、運用未経験者にも最初の一歩を踏み出してもらえるかどうか」だと話す。

一歩踏み出せない理由として「何を信じてよいかわからない」という未経験者の心理的な不安を挙げた代田氏は、1980年代から現在に至るまで、上げ下げしながらではあるが上昇していることを示す、世界の名目GDPと世界株式の推移グラフを提示し、「世界各国の企業が生産性を高めて利益を上げることで、世界経済は確実に拡大している。なので、長期的にみれば株価が上がるということは大原則なのです」と力説。しかしながら短期ではマイナスに転じることも少なくない。従って、20~30年を見据えた長期投資を手数料などのコストを抑えて、手頃な金額から始めることを推奨した。

共通するキーワードは“長期”。「一日にして成らずもの」の価値をどう伝えていくか、という点だった。

どのように消費者へ伝えていくかという「流通」に関しても、異業種のふたりは共通点を探った。

勝沼醸造の流通網の要は“特約店制度”だという。特約店制度とはおもに日本酒業界で取り交わされるメーカーと特定の卸業者の取引契約のこと。メーカーは不特定多数の販売業者に卸すのではなく、長年の信頼関係があり商品に対する理解を共有する取引先に限定するというものだ。さらに勝沼醸造では、ワイン専門業者ではなくおもに日本酒に特化した特約店に卸している。自社のワインは「地酒」であるという認識とともに、ワインは特別な日のものではなく、気軽に日常使いの地酒として楽しんでもらいたい、という思いからだ。その思いに共感した特約店が、メーカーの代弁者となって消費者へ伝えていく。

代田氏いわく、金融商品も個人への流通は販売会社へ委託するのが通例であるが、メーカーと販売会社との理念の共有は不可欠だという。こだわりの商品を円滑に流通させるためには、販売委託先との良好な関係性は業種の垣根を越えて必須であり、思いの浸透はまず業界内から、という点も共通していた。

最後に「文化」について、互いの業界において理想とする文化の創造について語り合った。

冒頭の日米の現預金資産の内訳からもわかるとおり、世界的にみると投資による資産形成の意識が低い日本。投資という概念が日々の買い物と同じような日常的なものとなり、安定した暮らしを自ら守る意識を高め、国民がさらに豊かになれば、と代田氏は望む。「投資の勉強をしてから始めるよりも、すでに手元にある少額の資金で慣れることが重要です。そのような最初に手にしてもらえる商品を提供していきたい」と語った。

有賀氏も同じく、海外と日本のワイン愛飲家の違いを語った。世界のワイン産地の愛飲家は自国のワインに誇りをもち、自国産がいちばんだという意識も強い。日本ワインは黎明期といわれる現在、国内の愛飲家の日本ワインに対する意識はまだ世界とは大きな違いがある。世界に認められた勝沼醸造の低価格のワインが、彼らにとって勝沼醸造を知るきっかけとなるだけでなく、日本ワインの魅力に触れるエントリーワインになれば、と有賀氏は熱望する。そして、勝沼醸造が「山梨県人にとって誇りに思うワイナリーであるとともに、果ては日本人が誇りに思うワイナリーになれば」と語った。

異色のコラボレーションとなった投資とワインのセミナー。投資もワインも一部の熟知している者だけが踏み込める特別な世界と思われがちだが、じつはそうではない。どちらの世界も長期に渡る先人の知恵の結晶であり、モノづくりへのこだわりを貫くメーカーと各業界のたゆまぬ努力の結晶であり、それは豊かな日常を過ごすために万人が等しく享受できる産物であると参加者は実感した。

(注1)
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
(2023年8月25日 日本銀行調査統計局の資金循環の日米欧比較より)

勝沼醸造株式会社
https://www.katsunuma-winery.com/

三菱UFJアセットマネジメント株式会社
https://www.am.mufg.jp/

【協賛】
株式会社山梨中央銀行
投資に関するお問い合わせ:0120-201862(お客様専用フリーダイヤル)
受付時間:月〜金、9:00〜17:00