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    職人が完成させ…

西田恵

日本在住/ワインライター

アカデミー・デュ・ヴァンで学んだのち1989年よりインポーター勤務。レストランや百貨店を経て2000年よりフリーランスで執筆を開始。ワイン産地訪問25カ国。数カ国の国際ワインコンクールの審査員も務める。

2024.01.11
column

オルネッライア×日本料理「かんだ」
職人が完成させるマリアージュの世界

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和食とワイン。それはフレンチやイタリアンとワイン、と同じくらいに、いまやどこでも誰でもが自由に楽しめるペアリング。天ぷらにスパークリングワイン、鮨に辛口の白や軽快な赤、鉄板焼きにはボディ豊かな赤ワイン。いまや和食の域にあると思われる餃子にロゼの組み合わせもパーフェクトと言えるだろう。

けれど、本格的な日本料理のコースに合わせるとしたら? そしてその店が、ミシュランの日本上陸以来17年ずっと三つ星を保ち続ける名店「かんだ」だとしたら?

スパークリングワインから始めて、軽い白からコクのある白へ、そして赤へ……。セレクションに悩むことすらうっとりした時間を過ごせそうだが、今回かんだの店主、神田裕行氏の協力のもと、たった1種類のワインのヴィンテージ違いだけでマリアージュの可能性を楽しむというディナーが開催された。

■その1種類のワインとは、オルネッライア(Ornellaia)

1981年にロドヴィコ・アンティノリによってボルゲリの地に設立されたスーパータスカン。アンドレ・チェリチェフ、ミシェル・ローラン、アクセル・ハインツなど国際的な醸造の名手によって磨かれてきた、押しも押されもせぬトスカーナのトップワインだ。

ワインは2010年と11年、最新ヴィンテージの20年。これらを事前に試飲した神田氏が、通常のコース料理にアクセントを加えたものを用意した。

■ヴィンテージについて

2010年「ラ・セレブラツィオーネ(祝福) 」
「近年ではもっとも冷涼で成熟に時間がかかったヴィンテージ。過去に類を見ないほどエレガントなオルネッライアに仕上がった」

構成:カベルネ・ソーヴィニヨン53%、メルロ39%、プティ・ヴェルド4%
コメント:ドライイチジクやデーツ、シガー、濡れた鉄、スパイス、腐葉土の香り。イチジクやダークチェリーのこなれた果実味に、シガーや黒系スパイス、バニラの風味が深みを与えたエレガントなワイン。ベルベットのように、しなやかに厚いタンニン。

2011年「リンフィニート(無限) 」
「豊かな陽光に恵まれた早熟のヴィンテージで、オルネッライアのスタイルを完璧に表現できた年」

構成:カベルネ・ソーヴィニヨン51%、メルロ32%、カベルネ・フラン11%、プティ・ヴェルド6%
コメント:プラム、ブルーベリー、インク、腐葉土、パプリカ、グラファイトの香り。凝縮感のあるプラムやダークチェリーの果実味に、バルサミコやトースト、インク、スパイスの風味が厚みを加えたリッチな味わいで、まさに飲み頃。骨格の芯となるタンニンが凛々しい。

2020年「ラ・プロポルチオーネ(調和)」
「凝縮感があると同時に非常にエレガントで、香り高い余韻がいつまでも続く」

構成:カベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロ32%、カベルネ・フラン13%、プティ・ヴェルド5%。
コメント:ダークチェリー、ブルーベリー、プラム、インク、鉄、タバコ、バニラの香り。プラムやダークチェリーの濃厚な果実味に、甘いスパイスやバニラ、グラファイトの鉱物感、レザーの風味が調和した、ボリューム感のある華やかなワイン。なめらかに厚いタンニンがキレイに溶け込んでいる。

■料理とのペアリング

コースはまず「白子の茶わん蒸し」から始まった。続いて、「松葉蟹と松茸の和え物」「重箱蟹の花穂紫蘇ゼリー掛け」「蓮根餅と車海老のお椀」と続き、そしてここから、オルネッライアとのペアリングがスタート。

ペアリング1)
「カワハギのお造り」
カワハギに肝と7年熟成のかんずりを乗せて。繊細な身と肝のコク、かんずりのスパイスが見事に調和し、赤ワインと調和する複雑さが生まれた。

シェフのおすすめは2011年。「ワインにペッパーや唐辛子の風味を感じたのでかんずりを合わせた」そう。

ペアリング2)
「カマトロのお寿司 白トリュフのせ」
繊細な酢飯とカマトロの脂の絶妙なバランス。それを包み込む白トリュフの華やかな風味が、鼻を抜けて顔の周りまで染めるように広がる。

シェフのおすすめは2010年。「ワインのシルキーなタンニンがトロの脂とトリュフの風味をいっそう引きたてる」。

ペアリング3)
「まながつおの幽庵焼き」
魯山人の皿で提供されたまながつおの幽庵焼きは、しっとり弾力のある身に、柑橘の効いた上品な幽庵地がしみ込み、香ばしく、かつ爽やかな余韻を残す。

シェフのおすすめは2010年。「焼き物とワインの香ばしさに共通項がある」。

ペアリング4)
「黒舞茸の炭焼き」
炭焼きすることで香ばしさが増し、うjま味がぎゅーっと凝縮された黒舞茸は、醤油を少しつけることでバルサミコ的な風味があらわれ、味わいはより複雑に。

シェフのおすすめは2020年。「醤油の甘さとワインの甘さ、ほのかなスモーキーさが合う」。

ペアリング5)
「すっぽんの唐揚げ」
五香粉をまぶして揚げたスッポンは、脂の甘さとスパイスが見事に調和。添えられた青山椒を少しつけると、ほのかな刺激とともにフレッシュでさわやかな風味が口いっぱいに広がる。

シェフのおすすめは2011年。「ワインのもつスパイシーさを生かしました」。

ペアリング6)
「七谷鴨の藁焼き」
放し飼いで育てた京都の七谷鴨は、表面は香ばしく、弾力のある肉は鉄分たっぷりの肉汁をたたえる。藁のスモーキーな風味が鼻に抜け、余韻を山葵塩のフレッシュさが締める。

シェフのおすすめは2010年。「ワインにある血を思わせる鉄分やスモーキーさを合わせました」。

ペアリング7)
「新潟産地鶏の炭焼き クレソンと海苔のサラダ」
炭焼きならではのスモークの香りをまとった、表はカリッとクリスピー、中はしっとりジューシーな地鶏。

シェフのおすすめは2020年。「和牛ではソフト過ぎる、イノシシでは強すぎる」と260日飼育の地鶏をセレクト。「ワインに墨や薪の風味を感じたので炭焼きに」したそう。

最後は、「鱧と松茸と長茄子の煮物」と、「ご飯、鰻、サクラエビのかき揚げ、マグロの赤身の漬け、香の物」で締め。

■食事を終えて

神田裕行氏いわく、「まず意識を向けるのは香りのトーン。これで料理とワインをつなごうと考えます」。

赤ワイン、しかも陽光豊かなトスカーナの地でボルドーブレンドから生まれたオルネッライアと、繊細の極みともいえる日本料理のフルコース。さすがにチャレンジングなのでは? と思いきや、これがすべてパーフェクトなペアリングだった。和食はたしかに繊細だが、けっして儚くはない。土の、海の、生物の生命力を宿す食材は力強く、醤油や出汁も、うま味がぎゅっと濃縮されている。それらを合わせて繊細なディールを備えたひと皿に導けるのは、高い技術をもつ職人だけだ。

それはワインにもあてはまる。土と太陽、雨に育まれた、高いポリフェノールや豊かな酸をたくわえた完熟したブドウ。それを繊細なディテールのあるワインに仕上げることができるのは、熟練した醸造家だけ。料理とワインは、ディテールが多彩なほどに、複雑なほどに、互いの接点を見出すことができる。

神田裕行氏はその接点を見出し、見事につないでくれた。「父がかつてオルネッライアのレ・ヴォルテをデイリーワインとして愛飲していて、自分もオルネッライアの世界観に親しんでいたから」、と神田氏は語るが、フランス修業時代に培われたワインの知識とセンス、そして経験によるワインの解析度、理解度の高さには感服した。

そして、熟成によりさらに多彩なディテールが生まれ複雑さを増し、日本料理の頂点のひとつ「かんだ」でも見事なペアリングをみせたオルネッライアの力を、あらためて思い知ることとなった。

日本料理 かんだ
住所:東京都港区愛宕1-1-1虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー1階
TEL:03-6459-0176
www.nihonryori-kanda.com

オルネッライア
https://www.ornellaia.com/ja/

Text & Photo : Megumi Nishida