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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2024.12.16
column

「ニュー・ノルディック・ワイン」ドイツで初めて行なわれた、デンマークワインの試飲会へ~ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.43

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     Mikkel Baekgaard ©Vejrhøj Vingård

今年の6月、ドイツで初めてデンマークワインの業界向け試飲会が行なわれた。ドイツ北部ハンブルク市内のノルディック・ブラッセリー&バー「ヒュッゲ」に、デンマークから7醸造所、北ドイツから1醸造所、計8醸造所が集結した。ドイツの醸造所はデンマーク国境に近いフェーア島から。フェーア島はかつて、デンマークに属していたことがある。

ワインコンサルタントのイエンス・ハイネマイヤー、マーケティング・オフィスを営むガビィ・ハイネマイヤー、エノログでワインジャーナリストのダグマー・エーリッヒ、「ヒュッゲ」のチーフソムリエを務めるレンナート・ヴェンクによる企画で、ハンブルク以外からもワイン・プロフェッショナルたちが駆けつけた。

イエンス・ハイネマイヤーが営むグレープ・ワーカーは、おもに欧州北部でブドウ栽培・ワイン醸造のコンサルタント業務を行なうほか、デンマークのバイオテクノロジー先端企業、クリスチャン・ハンセン社と共同でワイン用の酵母、乳酸菌の研究開発を行なっている。1990年代末から、デンマーク各地の醸造所をサポートしてきた彼は、デンマークの醸造所、デンマークワインにもっとも通じた人物のひとりだ。

デンマークは2000年8月、EUによりワイン生産国として正式に認可された、欧州最北のワイン産地である。07年には同じくEUからエチケットに生産地域、ヴィンテージ、ブドウ品種を表記することが認められ、18年にはユトランド半島の南東地域にあるドンス(Dons)がデンマーク初の原産地呼称保護地域に承認された。

現在、デンマークのワイン用ブドウの畑の総面積は約200ヘクタール、生産者は約90社といわれる。ワイン産地はユトランド半島、フュン島、シェラン島地域、ボーンホルム島の4地域、おもな栽培品種はソラリス、ソヴィニエ・グリ、ヨハニーター、ムスカリス、リーゼル(以上白品種)、ロンド、レゲント、ピノ・ノワール(以上赤品種)で、ピーヴィー(PiWi)品種がほとんどを占める。なかでも、64年に、当時のチェコスロヴァキアで交配された赤品種ロンドは、悪天候や多雨によく耐え、収量が安定しており、ピノ・ノワールに似た風味のワインができるため、初期の頃から生産者に好まれていたそうだ。

イエンス・ハイネマイヤーは、「デンマークワインの転機は06年ごろに訪れた」という。当初は凝縮した赤ワインの醸造を目指す造り手が多かったが、その頃から、繊細な白ワインやスパークリングワインの生産者が増え、赤ワインも冷涼気候を生かしたエレガントなスタイルのものが生まれるようになったという。

メキシコ湾流の恩恵を存分に受けるユトランド半島とバルト海の島々は、海洋性気候、夏季の長い日照時間、冬季の充分な降雨など、独自の好条件を備えている。やがてリースリングなどの伝統品種が、無理なく栽培できる日が来るかもしれない。

会場では、バイ・ストッケビーの「Coco」(2022、ピノ・ノワールのブラン・ド・ノワール)、グルトベック・ヴィンガートのオフドライのムスカリス(2022)、ハイダウェイ・ヴィンガートの「Vingesus」(2023、ソヴィニエ・グリ&ソラリス)、ニョルトの「Isso」「Terrassen」「En Variation」「Sandhoj」(いずれも2021年産、すべてピノ・ノワール・プレコース)、アーンベルク・ヴィンの「CV」(2021、ソラリスのデザートワイン)、ヴェアホイ・ヴィンガートの「Drolling」(2022、ヒバナル)など印象的なワインに出会った。

ピーヴィー品種は、赤品種において選択肢が少なく、レゲントの人気には翳りが出ている。期待される赤品種には、ピノティン、カベルティン、サテン・ノワールなどがあるが、造り手たちはすでに、伝統品種であるピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)やピノ・ノワール・プレコース(フリューブルグンダー)に挑戦しており、かつてワイン造りの北限だった頃のドイツの赤を思い起こさせるワインが生まれはじめている。

近いうちに、デンマークのワイナリーを巡る旅に出かけてみたくなった。

参加醸造所のプロフィールは以下の通り。

■デンマーク

By Stokkebye/バイ・ストッケビー(フュン島)

創業年:2015年
栽培面積:6ha
年間生産本数:2万本
オーガニック認証:取得
栽培品種:Solaris(PiWi)、L’Acadie Blanc(カナダの白品種)、Johanniter(PiWi)、Pinot Noir、Golubok(ウクライナの赤品種)
ワインのスタイル:白、ブラン・ド・ノワール、スパークリングワイン(伝統製法)
bystokkebye.com

Guldbaek Vingaard/グルトベック・ヴィンガート(ユトランド半島)

創業年:2008年
栽培面積:5ha
年間生産本数:1万5000本
オーガニック認証:取得
栽培品種:Solaris(PiWi)、Muscaris(PiW)、Riesel(リースリングとPiWiの交配)、Cabernet Blanc(PiWi)、Cabernet Noir(PiWi)
ワインのスタイル:白、ロゼ、赤、スパークリングワイン(伝統製法)、酒精強化ワイン
guldbaekvingaard.dk

Hideaway Vingaard/ハイダウェイ・ヴィンガート(シェラン島)
創業年:2006年
栽培面積:1.4ha
年間生産本数:8500本
オーガニック認証:取得
栽培品種:Solaris(PiWi)、Souvignier Gris(PiWi)、Phönix(PiWi )、Johanniter(PiWi)、Bolero(PiWi)、Rondo(PiWi)、Cabernet Cortis(PiWi)、Reberger(PiWi)
ワインのスタイル:白、ロゼ、赤、フリッツァンテ、ベルモット
hideawayvingaard.dk

Njord/ニョルト(シェラン島)

創業年:2010年
栽培面積:4.6ha
年間生産本数:7500本
栽培品種:Solaris(PiWi)、Pinot Noir Précoce
ワインのスタイル:白、赤
njordvingaard.dk

Ørnberg Vine/アーンベルク・ヴィン(シェラン島)
創業年:2007年
栽培面積:5.5ha
年間生産本数:1万4000本
栽培品種:Solaris(PiWi)、Phönix(PiWi)、Ortega, Sauvignon Blanc、 Johanniter(PiWi)、Souvignier Gris(PiWi)、Pinot Noir
ワインのスタイル:白、フリッツァンテ、スパークリングワイン(伝統製法)、デザートワイン
oernbergvin.dk

Saxtrup Vingaard/ザックストロップ・ヴィンガート(ユトランド半島)デンマーク最北の醸造所
創業年:2020年
栽培面積:4ha
年間生産本数:2000本
栽培品種:Solaris(PiWi), Riesel(リースリングとPiWiの交配), Johanniter(PiWi), Muscaris(PiWi), Souvignier Gris(PiWi), Hibernal(PiWi), Castel
ワインのスタイル 白、ペットナット、スパークリングワイン(伝統製法)
saxtrup.dk

Vejrhøj Vingaard/ヴェアホイ・ヴィンガート(シェラン島)

創業年:2011
栽培面積:2.5ha
年間生産本数:2万本
栽培品種:Solaris(PiWi)、Muscaris(PiWi)、Hibernal(PiWi)、Phönix(PiWi)、Souvignier Gris(PiWi)
ワインのスタイル:白、ロゼ、フリッツァンテ、スパークリングワイン(伝統製法)、ベルモット
vejrhoj.dk

■ドイツ

Weingut Waalem/ヴァイングート・ヴァーレム(フェーア島)
創業年:2009年
栽培面積:6ha
年間生産本数:3万本
栽培品種:Solaris(PiWi)、Johanniter(PiWi)、Souvignier Gris(PiWi)、Hibernal(PiWi)、Pinotin(PiWi)
ワインのスタイル:白、スパークリングワイン(伝統製法)、ベルモット、ジン
weingut-waalem.de