
柳忠之
日本在住/ワインジャーナリスト
ワインジャーナリスト。ワイン専門誌記者を経て、1997年からフリー。専門誌のほか、ライフスタイル誌にもワイン関連の記事を寄稿する。ワイナート本誌ではおもにフランス現地取材を担当。

隠れた銘醸地フィサン、その偉大なクリマ「クロ・ド・ラ・ペリエール」を解き明かす
フィサンはコート・ド・ニュイの北部に位置する小さな村。北にマルサネ、南にはブロションを挟んでジュヴレ・シャンベルタンが陣取る。これまでブロションのブドウから造られるワインは、南半分がジュヴレ・シャンベルタン、北半分はコート・ド・ニュイ・ヴィラージュのAOCとなっていたが、2024年の収穫から後者はフィサンを名乗れるようになった。これで32ヘクタール分のブドウ畑がフィサンに編入されたが、それでも130ヘクタールほどに過ぎず、コート・ド・ニュイでは依然として最小のアペラシオンだ。
ジャスパー・モリスMW(マスターオブワイン)も著書の中で言及しているが、地質的にはジュヴレ・シャンベルタンとよく似ており、丘の上部はジュラ紀中期のウミユリ石灰岩でその下にマール(泥灰岩)。ただし、斜面の傾斜は2~5%と比較的緩やかで、グラン・クリュ街道の東側はコンブ・ラヴォー(ジュヴレのそれとは綴りが異なる)、コンブ・ド・フィサン、コンブ・ド・ブロションといった3つの小さな谷から流れてきた沖積土による扇状地が大半を占めている。
フィサンにグラン・クリュはないが、プルミエ・クリュが6つある。北からLes Arvelets(レ・ザルヴレ)、Les Hervelets(レ・ゼルヴレ)、Les Meix Bas(レ・メ・バ)、Clos Napoléon(クロ・ナポレオン)、Clos de la Perrière(クロ・ド・ラ・ペリエール)、Clos du Chapître(クロ・デュ・シャピートル)。3つの“クロ”はそれぞれひとつのドメーヌが単独所有するモノポール(ただし、クロ・デュ・シャピートルはデュフルール家の単独所有だが、さまざまなネゴシアンによりリリースされている)で、クロ・ド・ラ・ペリエールは1853年からジョリエ家が所有している。
歴史を遡ると1142年、ブルゴーニュ公ユード2世が狩猟宿となっていたマノワール・ド・ラ・ペリエールとともに、その弟でシトー派修道僧のアンリに寄進した土地で、以降、修道僧たちによってブドウ畑として開墾された。ペリエールとは石切場跡を意味するフランスの古語で、マノワールを建てるためにここから石灰岩の石を切り出したことに由来する。

マノワール・ド・ラ・ペリエール。
フィサンの南端、クロ・デュ・シャピートルの上に位置する6.7ヘクタールの一枚畑だが、実際には3つのリュー・ディから成る。メインのLa Perrière(ラ・ペリエール)、丘の上部にあるEn Suchot(アン・シュショ)、それに隣村のブロションに飛び出たQueue de Hareng(クー・ド・アレン)だ。東ないし南東向きの斜面に位置し、地質学的にはその大部分がグラン・クリュのシャンベルタンにも見られるウミユリ石灰岩による粘土石灰質土壌である。ドクター・ラヴァルによる1855年の格付けではフィサンで唯一、最上級のテット・ド・キュヴェに選ばれている。

クロ・ド・ラ・ペリエールの畑。
ドメーヌ・ジョリエの現当主は6代目のベニーニュ・ジョリエだ。1990年に父のもとで働き始め、この年にクロ・ド・ラ・ペリエールの中でもいちばん涼しく、石灰質の強い0.5ヘクタールの区画にシャルドネを植樹。以来、年平均3000本の白ワインを造るようになった。ブドウ栽培は長年にわたりビオロジック。これまで非認証だったが、今年認証を申請し、2027年に取得の予定となっている。

ドメーヌ・ジョリエ現当主のベニーニュ・ジョリエ。
赤ワインは21年以降、75%を全房で、25%を除梗して醸造。それまでは100%全房だった。樽熟成は新樽率20%で24カ月。白ワインはタンクで発酵を始め、樽に移して12ha月の熟成。「コート・ド・ニュイの白ワインには充分なグラがある」として、バトナージュは行なわない。近年の試みは素焼きの甕による熟成で、現在は樽熟成のワインと最終的にブレンドしている。「いまのところ白ワインの方が向いているようだ」とベニーニュはいう。
また、赤ワインには通常のクロ・ド・ペリエールのほかに「Cuvée Camille(キュヴェ・カミーユ)」がある。カミーユはベニーニュの娘で、ジョリエ家の7代目後継者の名前。樹齢80年以上のピノ・ノワールから造られたキュヴェで、その熟成用の樽は、クロ・ド・ラ・ペリエールのアペラシオン内で育つオークを切り出し作らせたもの。一方、クロ・ド・ラ・ペリエールのセカンドワイン的な位置付けとして「Cuvée Filiae(キュヴェ・フィリアエ)」が近く登場の予定だ。こちらは若木から造られたキュヴェである。

ドメーヌ・ジョリエのセラー。
2020年、21年、22年のクロ・ド・ラ・ペリエール赤と白を、レカン・グループ総支配人兼エグゼクティヴソムリエの近藤佑哉が試飲。以下のようにコメントした。
《赤3ヴィンテージ》

Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Rouge 2022
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ルージュ 2022
外観は淡い鮮やかなルビーレッド。香りの第一印象はフレッシュでエレガント。フレッシュなサクランボやクランベリー、サワーチェリーを中心にスミレの花やウメのような華やかな香りが立ち上がり、グラスを回すとナツメグやオレガノに加え、花山椒などのスパイシーなニュアンスやチョーキーなミネラル、鹿肉や鳩の胸肉のような赤身肉の鉄分の香りが力強く続く。
フレッシュでエレガントな果実味が伸びやかな酸に乗って味わいのストラクチャーを形成し、キメの細かい溶け込んだタンニンがなめらかなテクスチャーを形成。アフターには赤い果実やフローラルなニュアンス。チョーキーなミネラルの風味が心地よく鼻から抜けていく。(スコア 98)
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Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Rouge 2021
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ルージュ 2021
外観はやや深い鮮やかなクランベリーレッド。香りは複雑性の高さが感じられるものの、ややシャイな印象。潰れたクランベリーやレッドチェリーに、スミレやライラックの花のアロマがミックスして感じられる。グラスを回すとオレガノやマジョラムのハーブに、微かにビーフジャーキーのようなミネラルのアクセント。
味わいはエレガントで溶け込んだ印象。落ち着きのある果実味の中に酸味とタンニンが調和し、舌にゆっくりと染み渡るように広がる。アフターにはジンジャーブレッドなどのスパイシーなフレーバーが感じられる。(スコア 94)
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Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Rouge 2020
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ルージュ 2020
外観はやや深いルビーレッド。香りの第一印象はセイヴォリーな印象。熟れたクランベリーやサワーチェリーに、スミレの花やローリエのニュアンス。グラスを回すと根菜のミネラル感やマッシュルーム、紅葉や上質な烏龍茶のような印象を感じることができる。
味わいはアタックから調和の取れた穏やかな果実味と酸味を感じ、溶け込んだタンニンがアフターにカツオ節のような地味深い印象を与える。余韻は長く、柔らかいテクスチャーが心地よい。(スコア 95)
《白3ヴィンテージ》

Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Blanc 2022
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ブラン 2022
外観は明るいレモンイエローにシルバーのリフレクションがクリスタルのようにキラキラと輝く。香りはまず第一に、太陽を感じるフレッシュなネーブルやバレンシアオレンジ、これにビワやキウイ、紅玉にオレンジブロッサムやゼラニウムのような甘い花のアロマがグラスいっぱいに広がる。さらにチョーキーなミネラルや杏仁、アーモンドやカシューナッツの香りが続く。
フレッシュでみずみずしい果実味に、伸びやかで品のある酸味が味わいのテンションを保つ。香りでも感じられた甘い柑橘やスパイスのフレーバーがアフターにも感じられ、心地よい。(スコア 96)
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Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Blanc 2021
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ブラン 2021
外観はやや濃いめのゴールデンイエロー。香りはオレンジゼストや赤リンゴ、洋梨、アプリコットを中心に、レモンバーベナティーやジャスミンなどの華やかなアロマも。グラスを回すとローストアーモンドやバニラ、ブリオッシュなどの香ばしいアロマに、チョーキーなミネラルが心地よく立ち上がる。
チョーキーなミネラルが溶け込んだ上品でしなやかな酸味が、落ち着いた果実味とともにゆっくりと口中で広がり、優雅な印象を与えている。(スコア 95)
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Fixin Premier Cru Clos de la Perrière Blanc 2020
フィサン プルミエ・クリュ・クロ・ド・ラ・ペリエール ブラン 2020
外観はやや濃いゴールデンイエロー。香りは非常に複雑で豊かな第一印象。オレンジのコンフィやキンカン、リンゴのコンポートのアロマに桂花茶のニュアンス。グラスを回すとローストアーモンドやピーカンナッツ、ボルディエバターのような上品でミルキーなアロマが心地よく感じられる。
味わいのアタックはエレガントで、じっくりと練り込まれた果実味と酸味が多層的に口中に広がる。アフターにはチョーキーなミネラルが力強く立ち上がり、余韻を複雑に表現し、非常にスケールの大きい印象を与えている。(スコア 98)

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