
秋山 まりえ
日本在住/ステラマリー代表
総合商社勤務を経て、2006年に資格取得。ソムリエールとして経験を積む。2015年、ステラマリー起業。同年より「ステラマリー☆ワイン会」主宰。メーカーズイベント、ペアリングディナー開催等、ワインが繋ぐ一期一会をプロデュース。『ワイナート』誌106号〜116号にて「a Story」対談連載。

a Story ☆☆☆☆
ブルーボトルコーヒー日本第1号店や東京都現代美術館を擁し、グルメ、アートスポットとして近年ますます注目を集めている清澄白河エリア。その清澄にほど近い菊川は、2022年に画期的ミニシアター、Strangerが開館して以降、熱視線を注がれつつある町だ。

bistro234は、Strangerと同年秋にこの地でオープンした本格ビストロ。フランスで10年の修行を積んだ寺岡昌三シェフのスペシャリテ、ブイヤベースは東京一と絶賛の声もあるが、なんと2026年3月15日、マルセイユで行なわれた第1回ブイヤベース世界大会に日本代表として出場。出発前・帰国後の寺岡シェフ、そして、この地に馴染みがあり、bistro234でもワイン会を開催している秋山まりえが語りあう。
■ menu1
出発
寺岡 実家は焼肉店。店を切り盛りする両親を見て育ちましたが、飲食には興味のない野球少年でした。生まれは、大阪の工場地帯。将来は工場勤めでもしながら草野球ができたらいいな。漠然とそう考えていたのに、高校卒業直前、急に“料理がやりたい!”と思い立ちました。上の兄が焼肉店を継ぎ、2番目の兄もパティシエに。その影響もあったのかもしれません。いまとなっては、これ以外の仕事は想像がつかない。自分は料理しかできない人間。あのとき、なぜか覚悟を決めた高校3年生がいたのです。

秋山 菊川は縁の深い町ですが、bistro234を最初に知ったのは開店時のネットニュース。公式サイトを訪れると、もうよい香りがしていて(笑)、期待感が高まりました。私にとってのブイヤベースは、2011年に訪れたマルセイユの想い出とともにずっと心にある料理ですが、これほど感動的なブイヤベースに東京で出逢えるとは。寺岡シェフが追い求めたひとつの完成形がここにあると思います。フレンチやビストロは沢山ありますが、ブイヤベースをスペシャリテにしているレストランは東京でもごくわずかだと思います。
■ menu2
渡仏
寺岡 調理師学校では和洋中を学びましたが、カッコよさに憧れフランス料理の道へ。そして、渡仏。パリ「シェ・ミッシェル」のティエリー・ブルトン。ニース「ル・クロ・サン=ピエール」のダニエル・エトランジェ。どちらのシェフからも大きな影響を受けましたが、ダニエルのコースの一品としてのブイヤベースの在り方が、いまの自分の料理の基本になっています。
パリには日本人が沢山いて、このままでは全然フランス語が上達できないかも? と思ったこともあり(笑)、旅行して印象のよかった南仏へ。田舎育ちのせいか、海があってどこかのんびりしているニースは肌に合いましたね。

秋山 bistro234さんの大きな魅力のひとつが、オープンキッチン。シェフの仕事の速さと美しさに見惚れます。3年以上通っていますが、厨房はまだオープンしたばかりのように清潔。シェフズキッチンを構えるということは、“観られる”ことへの自信があるからでしょう。
初訪問時から、お互い訪れていた南仏マントンの名店ミラズール(ミシュラン三つ星店)の話題で盛り上がりましたが、設えやオーナメント、化粧室に至るまでフランス現地の雰囲気を演出されています。カウンターでシェフの仕事を眺め、語らうたびに、コート・ダジュールの絶景を想い出します。アラカルト中心で、お一人様にはハーフもご用意。カウンター、おすすめです。

■ menu3
ブイヤベースとロゼワイン
寺岡 ロゼは南仏に行ってから好きになりました。自分の料理にも合うと思うので、ボトルはもちろんグラスも数種類ご用意しています。日本ではまだまだロゼへの偏見があるので、ぜひ多くの方に試してほしいです。
ウチのブイヤベースは日本人に合わせて、エビの風味を大きく出しています。ポイントはエビと魚のバランスですね。スープとしてはクリアでありつつ味は濃厚に仕上げています。おかげさまでブイヤベース目当てで来てくださるお客様が多いですね。

コンテストというものに出場するのは初めて。これまでは興味がありませんでしたが、“ブイヤベースを世界に広めたい”という今回の世界大会の趣旨に是非協力したいと思い、選抜出場をお引き受けしました。
秋山 本場・南仏の星付きレストランで学ばれたものがベースですが、寺岡シェフのブイヤベースはいかに日本人においしく食べてもらうかを考え抜き、調整したオリジナル料理なのではないでしょうか。日本は出汁文化。本場のスープに日本人ならではの出汁の感覚を融合した味わいは、どなたをお連れしてもおいしいと笑顔をいただけます。
ところでブイヤベースは、どんなワインにも合う料理ではなく、最適なのはロゼや出汁感のあるワインだと私も考えます。グリルした魚介を“食べる”魚介料理でもある寺岡シェフのスペシャリテ。マリアージュは、エビとホタテ、つまり甲殻類と貝類の甘さ、スープ、そしてルイユソースがポイントとなります。料理より際立つワインではなく、脇役にもなれるワインでなければ。華やかでありながら、そっと寄り添うやさしさのあるロゼはぴったりです。

■ menu4
帰還
寺岡 現地のブイヤベースには決まりがあり、世界大会もそれを守らなければいけません。まず、地中海で採れるものを使うこと。そして魚を5種類以上用いること。小さなカニは使ってもいいのですが、エビや貝類は入れません。また食べる作法もあります。最初にスープ・ド・ポワソンが供され、まずスープだけを味わいます。次にそのスープで炊いた魚を見せ、今度は魚の身が加わったブイヤベースをいただきます。



世界大会では、高崎「Restaurant Olivier(レストランオリヴィエ)」の狩野永次シェフとタッグを組みました。彼は南仏時代に出逢った後輩シェフ。事前に当店で一緒にデモンストレーションできたことは大きかったですね。
実際の大会では、魚が10種類ほど用意され、会場で選べました。しかし食材も調味料も道具も争奪戦。“道具待ち”などもあり、制限時間3時間はあっという間でした。結果は6カ国中、フランス、スイスに次いで3位。なんとか入賞することができました。
2位を目指していたので残念ですが、現地で作るブイヤベースはあらためておいしいと思えたし、マルセイユ滞在時の食事も有名レストランでのブイヤベース三昧だったので、この料理との関係はさらに深まりました。南仏は10年ぶりでしたが、いい意味で何も変わっていませんでした。

今後は、世界第3位のブイヤベースも店で提供していきたい。4月25日、26日には「オリヴィエ」で狩野シェフとコラボもさせていただきました。
秋山 普段は口数が多くはありませんが、料理への想いとこだわりはしっかりとお持ちの寺岡シェフ。出発前のデモンストレーションでいただいたブイヤベースには、エビやホタテは入らず、アナゴ、イトヨリ、カマス、ホウボウと現地仕様の厳選された魚のみでしたが、洗練された逸品でした。ジャガイモのおいしさも印象的。
世界第3位に輝いた実績は、大きな自信につながり、寺岡シェフならではのフランス料理にさらに磨きをかけていくことでしょう。

bistro 234
住所:東京都墨田区菊川2-3-4
電話:050-5594-8430
https://bistoro-234.com
Restaurant Olivier
住所:群馬県高崎市福島町726-7
電話:027-388-0227
https://resutaurant-olivier.owst.jp
撮影:秋山まりえ
構成・撮影:相田冬二

![[ワイナート]The Magazine for Wine Lovers](https://winart.jp/winart_kanri/file/img/common/img_header_winart.png)






















