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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2019.02.25
column

ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.16「100年の伝統、定評あるワイン VDP/ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会」

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近年、日本でもドイツ・プレディカーツワイン生産者協会(Verband Deutscher Prädikatsweingüter 略称 VDP/ファオ・デー・ペー)の知名度がだいぶ高まってきた。鷲とブドウの房のシンボルマークは、ドイツを代表する高品質ワインの目印となっており、現在13生産地域に200近くの会員醸造所がある。

1910年に発足したVDPの前身はドイツ・ナチュラルワイン競売者連盟(VDNV, Verband Deutscher Naturweinversteigerer)という。高品質のワインを生産し競売する組織で、補糖を行なわない、よりナチュラルなワイン造りを実践していた。VDNVは2度の大戦中も存続し、戦後は連邦共和国の成立以前に、トリアーとラインガウで競売会を開催し始めた。

55年には、最高級ランクのワインの競売会を初めて実施し、協同組合会員を除外した。50年代後半からは、連盟内で品質管理を徹底し、ブドウ畑のコンディション、栽培品種、醸造設備などの調査に取りかかった。トリアーでも春の競売会が開催されるようになり、偉大な59年ヴィンテージの登場によって、会員のワインは国際市場に踊り出た。

ところが、67年にドイツワイン醸造連盟(DWV, Deutscher Weinbauverband)が「ナチュラルワイン」という概念の使用禁止を通達。VDNVは一時、解散の危機に瀕したが、名称を変更、組織を刷新し、72年にVDPとして再生した。

Mainzer Weinbörse(マインツァー・ヴァインベルゼ)の様子

73年にはマインツ・ワイン取引市場(Mainzer Weinbörse)という名称のイべントがスタート。競売会に代わる商談の場として、以後、毎年開催されるようになった。

82年には、連盟内で肩書き付きワインの最低糖度のレベルを上げるなど、独自の品質基準を導入。89年には、シアトルで初の国際リースリングシンポジウムを開催し、国際的なシャルドネ人気に対するオルタナティヴとしてのリースリングの魅力を訴えた。

91年から06年にかけては、さらに厳しい品質管理に取り組み、収量制限、最低糖度のさらなる引き上げ、新たな出荷規定などを取り決め、自然と共存するワイン造りへの方向性を打ち出した。これらの方針を打ち出したところで会員数に変動が起こる。90年以降、92醸造所が脱会、128醸造所が厳格な審査過程を経て新たに入会したのだ。

現在、VDPは厳格な品質管理と、積極的なマーケティングが功をなし、世界的に知られる高品質ワイン生産者団体に成長している。一国の優良生産者団体としては、世界最古である。

VDP会員のブドウ畑はドイツ全体の約5%、収量は約3%にすぎないが、売上高は約7.5%に相当する。リースリングの栽培割合はドイツの全ブドウ畑の23%だが、VDP会員畑における割合は55%にのぼり、ドイツの全リースリング栽培面積の12%を占めている。また、ドイツのオーガニックワイン栽培面積(8100ha)の22%がVDPの会員畑に相当。現在約50醸造所(会員の4分の1)がビオ基準でワインを生産している。

以下、会員の前提条件と格付体系をご紹介しよう。

VDP会員は醸造所のオーナーで、自らの醸造施設を所有し、栽培、醸造、マーケティングの全てを独自に行なう。土壌、トポグラフィ、ミクロクリマに恵まれた、優れたブドウ畑を所有し、常に品質の向上に努め、平均収量を75hℓ/ha以下に抑える。VDP. エアステ・ラーゲ、 VDP.グローセ・ラーゲは手摘み収穫を行なう。おもにリースリング、シルヴァーナー、ブルゴーニュ品種などの伝統的な品種を栽培。自然と協調した、醸造所の個性を生かしたワイン造りを行なう。

VDPの格付は、伝統ある畑に対しては、世界最古の格付地図といわれる、1867年に制作された、ナッサウ公国時代のラインガウ地域のブドウ畑の格付地図のほか、97年のモーゼル地域の格付地図、1900年のナーエの格付地図、02年、04年のラインガウ地域の格付地図などを踏まえている。いずれの地図も個々のブドウ畑に課された地価税のランクを表示したものだ。

VDP独自の3段階の格付けがスタートしたのは2002年。06年には「エアステ・ラーゲ」という概念が生まれ、12年に4段階の格付けが導入された。

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VDP.Große Lage(VDP. グローセ・ラーゲ)
グロース(groß)は偉大な、という意。最高級(特級)に格付けされた畑のブドウから造られるワイン。生産条件は4段階で最も厳格。長期熟成する秀逸なワイン。辛口は「VDP.Großes Gewächs(VDP.グローセス・ゲヴェックス)」と称される。

VDP. Erste Lage(VDP. エアステ・ラーゲ)
エアスト(erst)は第一の、ラーゲ(Lage)はこの場合、個々の畑を意味する。第1級に格付けされた畑のブドウから造られるワイン。

VDP. Ortswein(VDP. オルツワイン) 
オルト(Ort)は場所、村などの自治体を意味する。ひとつの自治体内の複数の優れた畑の地域特有のブドウから造られ、同地のテロワールを表現するワイン。村名ワインに相当。

VDP. Gutswein(VDP. グーツワイン)
グート(Gut)はこの場合醸造所を意味する。VDP格付けの基底をなすベーシックなワイン。醸造所の所有畑のブドウから造られる。醸造家の「ビジネスカード」的ワイン。

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ドイツの場合、地域や品種により甘口ワインも生産されるため、伝統的な格付け(カビネット、シュペートレーゼ、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼ、トロッケンベーレンアウスレーゼ、アイスワイン)も併用される。

13生産地域により、VDP. エアステ・ラーゲ、VDP.グローセ・ラーゲの規定品種はそれぞれ異なる。アール、モーゼル、ラインヘッセンの3地域は、現段階でVDP. エアステ・ラーゲを定義していない。

さらに、18年には新しくVDP.SEKTの基準も決まった。ワイン同様、VDP.グローセ・ラーゲ、VDP.エアステ・ラーゲ、VDP.オルツゼクト、VDP.グーツゼクトの4段階がある。ブドウの由来、収量、品種等はワインの基準と同一である。圧搾は全房圧搾のみ、醸造方法は伝統製法だけが認可されている。デゴルジュマンまで酵母の澱と接触させる期間は、 VDP.グーツゼクト、VDP.オルツゼクトは最低15カ月、VDP.エアステ・ラーゲ、VDP.グローセ・ラーゲは最低36カ月である。

VDPの格付けは、VDP会員醸造所に限定されている点で、メドックやサンテミリオンなどのシャトーの格付けを思い起こさせるが、実際に格付けされているのは会員の所有する畑であり、ブルゴーニュの格付けと同類だ。VDPが率先して始めた、ラーゲンワイン(畑名ワイン/1級および特級)、オルツワイン(村名ワイン)、グーツワイン(エステートワイン)という格付け段階は、糖度を基準とした従来の格付けよりもシンプルで受け入れられやすく、いまでは、非会員の醸造所においても導入されるようになっている。

Text:Junko Iwamoto
Photo:©VDP.Die Prädikatsweingüter