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2020.03.31
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イタリア・ヴェネト州の「ベルターニ」スタイルを知る【知識篇】

ベルターニはヴァルポリチェッラ地区の規範をつくってきたイタリアを代表する歴史的生産者だ。その古典的スタイルを堪能し、偉大な歴史を実感する試飲セミナーが2月に行われた。講師の宮嶋勲氏によるレポートをお届けする。 

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イタリア屈指のワイン産地を築いたベルターニ

イタリアには高い名声を誇る著名ワイン産地がいくつかある。ピエモンテ州のバローロ地区、バルバレスコ地区、トスカーナ州のモンタルチーノ地区、キアンティ・クラッシコ地区、カンパーニア州のイルピニア地方、そして今回の主役であるヴェネト州のヴァルポリチェッラ地区などだ。それぞれの産地にその歴史とワインの規範をつくった「顔」となる生産者がいて、バローロのフォンタナフレッダ、バルバレスコのガヤ、モンタルチーノのビオンディ・サンティ、キアンティ・クラッシコのブローリオなどがそれにあたるが、ヴァルポリチェッラではそれは当然、ベルターニだ。
 

創立者のベルターニ兄弟

ジョヴァン・バッティスタとガエターノのベルターニ兄弟は、1850年から1857年までフランスのボルドーやブルゴーニュに亡命していた。その間、世界中に普及しているグイヨー仕立てを考案した農学博士グイヨー氏に師事する機会にも恵まれたという。最先端のワイン造りを学び故郷ヴェローナに戻った2人が、ベルターニ社を創設したのは1857年である。そして1860年に当時としては画期的な辛口赤ワイン「セッコ・ベルターニ」をリリース、現在のヴァルポリチェッラの規範を築いた。

1861年に統一を果したイタリア王国では各地で、瓶詰されない素朴な自家製ワインから、近代的な商業的ワインへの脱皮が行われていた。日本でいうと幕末から明治中期にかけてのこの時期に、バローロやバルバレスコは微発泡性甘口ワインから長期熟成向き辛口ワインへの発展を遂げ、モンタルチーノではフェッルッチョ・ビオンディ・サンティを中心としてブルネッロ・ディ・モンタルチーノの原型が生み出され、キアンティ・クラッシコではベッティーノ・リカーゾリがキアンティ・クラッシコのブレンドの基礎である「フォルムラ」を定めた。古代ローマ時代からワイン産地としての高い名声を誇ってきたヴァルポリチェッラ地区であるが、優美な辛口赤ワインとしての近代的ヴァルポリチェッラの原型を定めたのは「セッコ・ベルターニ」であった。
 

ラベルにはサヴォイア王家の紋章をいただく

ヴェローナを代表する辛口赤ワインとなった「セッコ・ベルターニ」は、1868年からヨーロッパ諸国だけでなくアメリカにも輸出され、高品質ワインとしての地位を固める。その功績が認められ、1923年にサヴォイア王家から王家の紋章をボトルに記してもよいという許可を得た。いまでもその紋章が「セッコ・ベルターニ」のラベルに記されている。
1957年にはヴァルポリチェッラ・クラッシコ地区の中心であるネグラール渓谷にノーヴァレ農園を購入し、当時はまだ珍しかった自社畑のブドウからワインを造るという哲学を掲げた。古典的スタイルを頑なに守っている生産者で、そのワインは長期熟成能力の高さでも知られる。アマローネをはじめとするベルターニのワインはヴァルポリチェッラの精髄を感じさせてくれる。品質が高いだけでなく、この地でしか生まれない個性と唯一性を明確に持っているのだ。
 

1957年に購入したノーヴァレ農園。50年代にはまだ珍しかった自社畑だ

 

ヴァルポリチェッラの特徴とは?

それではヴァルポリチェッラ地区の特徴とは何かを簡単に見てみよう。ヴァルポリチェッラはヴェローナの北西に広がる丘陵地帯で、北にはレッシーニ山塊、南にはポー平原、西にはガルダ湖、東にはソアーヴェ丘陵地帯が広がる。北イタリアに位置しているが、イタリア最大の湖ガルダがつくり出す温暖な地中海性気候のおかげでブドウは完璧に成熟する。レッシーニ山塊は北からの冷たい風を防ぐと同時に、夜に適度の冷気を送り込んでブドウの酸とアロマを保持してくれる。土壌は基本的に石灰質で、一部に火山性土壌が混ざり、ワインに適度のミネラルを与える。フレッシュさを保ちつつ、濃厚すぎない優美なワインが生まれるテロワールである。

中心となる土着品種コルヴィーナ・ヴェロネーゼはチェリーのアロマを持ち、イタリアの土着品種には珍しくタンニンがやわらかく、酸がやさしい。タンニンと酸が強いネッビオーロやサンジョヴェーゼとはまったく異なるビロードのような口当たりを持つ、優雅なワインを生む品種である。
 

風を送るなど人工的に乾燥させるのではなく、あくまで自然に陰干し

これらの特徴に加えてヴァルポリチェッラ地区を他にはない産地としているのはブドウを陰干しするという伝統である。収穫したブドウをすのこに並べて陰干しして、水分を蒸発させ、糖度を高めるという手法はイタリア全土で広く使われているが、普通は甘口ワインを造るために使われる。ヴァルポリチェッラ地区がユニークなのはそれをアマローネという辛口ワインに使用することで、それにより他にはない特徴を持ったワインが生まれるのだ。
 

Text:Isao Miyajima

ワインの輸入元:モンテ物産株式会社
ベルターニHP:https://www.montebussan.co.jp/wine/bertani.html