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2026.03.05
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造り手による熱いディスカッション
現在地と未来 第2回日本ワインサミット

2月8日、第2回日本ワインサミットが山梨で開催された。4産地の現状報告と造り手による討論を通じ、気候変動への対応や品種戦略、ワイナリー経営、そして制度の整備に至るまで、多角的な論点から日本ワインの持続性と将来像について議論が交わされた。

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ワイン生産の現状を
4つの産地から報告

第1部はやまなし観光推進機構理事長の仲田道弘が進行し、北海道ワイナリー協会副会長の嶌村公宏、山形県ワイン酒造組合理事長の酒井一平、山梨県ワイン酒造組合会長の有賀雄二、長野県ワイン協会理事長の武田晃が登壇。気候変動や原料ブドウ不足、農家の高齢化といった構造的課題に関して、各地域からの報告がなされた。

第1部は日本ワインの現状として、主要国のワイン消費量や
国内産地の生産量の変遷などについてプレゼンテーションが行なわれた。

[北海道]ワイナリー数は75場へと大幅に増加したが、年ごとの収量変動や人材確保が依然として課題。近年はドイツ系品種からシャルドネやピノ・ノワールなど国際品種への転換が進み、北海道ワインでは防除回数削減の観点からPIWI品種も導入。道外や海外への販路を検討し、観光地としての認知度を強みに、インバウンド向けのプロモーションも視野に入れていく。

[山形]ワイン酒造組合が早くから設立され、生産者間の連携が堅固。高温多湿となる夏季の病害対策や降雪による棚の損壊など、気候による影響が大。主要品種であるデラウェアや江戸時代から栽培されている甲州など既存品種とともに、PIWI品種の導入も開始。高地に新たな圃場を求めることはできないため、品種選択を重視。棚田や山林、雪景色といった景観の独自性で観光誘致を図りつつ、イベント開催などに地域で一丸となって取り組んでいく。

[山梨]最大産地としての規模を維持しつつも生産量は減少。猛暑や多雨に対して、雨除け栽培などの技術的基盤はあるが、欧州系品種の栽培が厳しい。耐病性や多収性に優れ、兼業農家でも栽培を維持しやすい点で甲州の優位性が見直され、系統の絞り込みによりさらなる品質向上を図る。また甲州ワインEU輸出プロジェクト(KOJ)によって国際的認知も上がり、輸出拡大を目指す。早生の新品種であるソワノワールの栽培も始まり、期待される。

[長野]稼働する95社のうち、3割が特区免許の小規模ワイナリー。生産量が上がらず産地としてのPRがむずかしい。強みは標高差を生かした多様な栽培地。シャルドネをはじめとした欧州系白品種やメルロの適地とされてきたが、プティ・ヴェルドやタナといった黒ブドウが完熟するようになり、黒品種への改植が進む。「発酵」をキーワードに、味噌や日本酒、チーズなど地域の食文化と結びつけた発信を強化。

右からコーディネーターの仲田道弘、パネラーで北海道代表の嶌村公宏、
山形県代表の酒井一平、山梨県代表の有賀雄二、長野県代表の武田晃。


自らの手で未来を動かす
造り手たちの展望と自覚

第2部では田崎真也の進行のもと、日本ワインの未来と題してその持続性と展望について議論された。

品種選択にも関わる気候変動への対応について、小林弘憲(シャトー・メルシャン)は「収穫期が確実に前倒しになっていることを踏まえ、品種構成自体を見直す必要がある。収穫の精度を上げ、場合によっては補酸も検討する」と述べる。西村篤(菊鹿ワイナリー)は「農家の高齢化を背景に自社畑との両輪体制へ移行。九州では初秋に台風が直撃するため、早生品種やPIWI品種も検討」と気候リスクを前提とした選択肢を探る考え。掛川史人(カーブドッチワイナリー)が「アルバリーニョは糖度と酸のバランスがよく、ワインの評価も高い。欧州系でも日本の気候に合うものはある」と品種の可能性を示した。岸平典子(タケダワイナリー)は、「デラウェアの適応力は温暖化下で強みになる。日本の風土を前提に育種されたマスカット・ベーリーAも再評価すべき」と示唆。矢野映(ド・モンティーユ&北海道)は、「運営としてはまだ初期段階で、数十年かけて区画ごとに観察しつつ、畑を設計していく」と伝統生産国的な長期視点を述べた。

ワイン観光のトピックでは、全国のワイナリーに先がけて
レストランや温泉施設などを整備していたカーブドッチが成功例として挙げられた。

新規参入ワイナリーの6割が赤字という現実に、岸平が「経営が成立するだけの収量や原料調達の見込みがない事業者に対し、免許を付与するのはどうか」と発言。経営計画の実効性が免許制度に合致しているかという問題提起だ。後藤奈美(日本醸造協会)は「制度と実態の間に検討すべき点がある」、安蔵光弘(メルシャン)も「海外市場では制度の整合性が前提条件」とコメント。

終盤ではOIV品種登録に話題が及び、登録は品質保証ではなく、輸出において品種名表記が可能になるという実務的意義を後藤が説明。また、現在のGI(地理的表示)ではブランディングしづらいとの声に、田崎は「日本はワイン法が整備されていない。むしろPDO(原産地名称保護)の認定を視野に入れていくべきで、そのために酒造組合の全国組織を設立し、表明していく必要がある」と言及した。

田崎真也と後藤奈美は第1回サミットでも登壇し、それぞれコーディネーターと
コメンテーターを務めた。安蔵光弘は生産の立場からも発言。

最後に長崎幸太郎山梨県知事が登壇し、日本ワインの歴史と価値を体系的に発信、未来へつなげる事業として、日本ワインミュージアム構想を発表。「日本ワイン発祥の地として蓄積してきた知見と実績を礎に、全国の産地と連携しつつ日本ワインの発展に寄与していく」と結んだ。

右から 進行役の田崎真也、コメンテーターの後藤奈美、安蔵光弘、長崎幸太郎知事、
パネラーの西村篤、小林弘憲、掛川史人、岸平典子、矢野映。

「声を上げれば法も変えられるとわかり、やるべきことが見えた。業界で手を携え、自分たちの力で実現するときが来ている」。討論後の掛川の言葉が、この日共有された認識を端的に示した。

討論後の交流会には全国から生産者が来場し、ワインを提供。
丸藤葡萄酒工業の大村春夫も長崎知事や仲田道弘とグラスを傾けていた。



第2部に登壇したふたり。
「正統派ワインとして造っているのか、遊びのあるチャレンジアイテムなのか
という線引きは必要。そのためにも法を整備すべき」。(掛川)。
「造りの自由を維持するにしても、日本ワインの品質を担保するための統一基準は設けるべき」。(矢野)



日本ソムリエ協会執行役員で山梨支部長の鈴木忍は
「日本ワインの現状と課題を共有することができた有意義な場だった」と語った。



本催しは日本ソムリエ協会も後援し、試飲会ではサービスを担当。
協会常務理事の長谷部賢も、生産者とともにブースでワインをサービスした。



Text & Photo : Hiromi Tani