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2020.03.31
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イタリア・ヴェネト州の「ベルターニ」スタイルを知る【試飲編】

ベルターニはヴァルポリチェッラ地区の規範をつくってきたイタリアを代表する歴史的生産者だ。知識編に続く後編では、ベルターニの各アイテムについて、テイスティングコメントを中心にレポート。

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ベルターニの味わいを解説

試飲はベルターニの歴史的ワインを復活させたヴィンテージ・エディション(復刻版)から始まった。
ソアーヴェ・ヴィンテージ・エディションは昔のレシピに従って2011年ヴィンテージから復活した。ベルターニ社のソアーヴェは1930年代から国際的に名声が高く、映画「英国王のスピーチ」で有名なイギリス国王ジョージ6世の戴冠式(1937年)の昼食会に使われるなど、破格の扱いを受けていたワインだ。ガルガーネガ100%で造られ、40%のブドウは9月第3週に収穫し、14度で普通の白ワイン醸造を行う。残りのブドウは10月後半まで待って収穫、果皮とともに20度で15日間発酵。この2つをブレンドし、ガラスコーティングしたセメントタンクで滓とともに熟成させる。
 

美しい黄金色に輝く液色(左)。ほぼ満席となったセミナーは、参加者からも大好評

 
2016は白い花の上品な香りにフレッシュなハーブのニュアンスが混ざり、味わいはふくよかで、複雑だが、軽やかさを見事に保持している。果皮からくる豊かさが感じられるが、酸化のトーンはまったくなく、デリケートだ。最近は華やかなアロマで勝負するソアーヴェや、フレッシュさに軸足を置いたアペリティフ向きソアーヴェが増えたが、これはじっくりと時間をかけて楽しみたいうま味のあるソアーヴェである。早飲みソアーヴェが主流となった現在、2~3年寝かせて飲み頃に入ったヴィンテージをリリースしていることも非常に好ましい。しっかりした食事とともに時間をかけて向き合いたいワインだ。
 

右から試飲順番にボトルが並ぶ。ヴィンテージ・エディションのソアーヴェとセッコ・ベルターニ。そして、2つのリパッソが続く

 
“セッコ・ベルターニ”ヴィンテージ・エディションは、1888年の製造方法を参照して、当時と同じブレンド、クローン、醸造で2009年ヴィンテージから復刻された。コルヴィーナの伝統的クローン80%、サンジョヴェーゼ・グロッソ10%、シラー5%、カベルネ・ソーヴィニョン5%というブレンドで、長時間のコールドマセレーションの後、セメントタンクで発酵、栗とサクラの木樽で12カ月熟成する。2015はサワーチェリー、野生の赤い果実の香りを持ち、辛口で断固とした味わいで、優美でありながらも深みがある。鴨ソースの手打ちパスタ、牛肉の煮込みなどの地元伝統料理に合いそうだ。しみじみとした美味しさを持つワインでどこか懐かしい味わいだ。

次はリパッソを試飲する。リパッソはヴァルポリチェッラワインにアマローネの搾り滓を合わせ再発酵させる醸造法で、ワインにボディと深みのある果実味が加わり、さらに優美になる。
 

リパッソやアマローネの比較試飲は、貴重な機会だ

 
今回試飲するのはスタンダードなヴァルポリチェッラ・リパッソ2016と日本市場に新たにリリースされる“カトゥッロ”・ヴァルポリチェッラ・リパッソ・クラッシコ・スペリオーレ2016(以下“カトゥッロ”)だ。ヴァルポリチェッラ・リパッソはヴァルポリチェッラ・ヴァルパンテーナ地区とヴァルポリチェッラ・クラッシコ地区の両方のブドウを使い毎年造られる。それに対して、“カトゥッロ”はヴァルポリチェッラ・クラッシコ地区にあるノーヴァレ農園のブドウだけを使い、アマローネ・クラッシコが造られる良年だけにその絞り滓を使って造られ、よりテロワールを明確に表現したリパッソである。

両方ともイキイキとしたチェリーのアロマを持ち、シルキーな口当たりで、芳醇だが、フレッシュで、繊細な味わい。“カトゥッロ”は持続性と深みがあり、調和がとれているので、バランスを保ちながら、美しく熟成するだろう。近年国際市場ではやたら濃厚で、陰干しのニュアンスを強く感じさせるベビー・アマローネ的リパッソが成功しているが、ベルターニ社のリパッソはヴァルポリチェッラ本来のみずみずしさ、優美な味わいを守っていて、明確なアイデンティティを保っている。ヴァルポリチェッラがアルプスに近い産地であることを感じさせてくれる優美なスタイルだ。生ハム、サラミなどの前菜から、パスタ、肉料理まで幅広い料理に寄り添ってくれるだろうし、やさしい味わいなので少し低めの温度でワインだけを楽しむこともできる。
 

アマローネの垂直試飲は2010、2009、2000年の3ヴィンテージ

 
最後にベルターニ・スタイルの真髄を表現するアマローネの3ヴィンテージ、2010、2009、2000を試飲する。
ベルターニ社のアマローネはネグラール渓谷にある森林に囲まれ自然豊かなノーヴァレ農園のブドウだけを使い、良年のみに造られる。使用されるコルヴィーナはベルターニ社が独自に選抜したクローンだ。畑のなかでも最良のブドウだけを厳しく選別し、それをすのこの上で4カ月も自然な状態で陰干しする。

1990年代後半から扇風機や乾燥機を使った人工的な陰干しが増え、アマローネの品質は安定するようになったが、同時にドライフルーツのニュアンスが出すぎて、複雑さに欠けるアマローネが増えたことも否めない。それに対して、ベルターニの自然陰干しは時間と手間暇がかかるが、ゆるやかに陰干しすることでしか得られない陰影と豊かなニュアンスが生まれる。
その後はガラスコーティングしたセメントタンクで40日をかけてゆっくり発酵して、スラヴォニアオーク大樽で6年間熟成する。今は2年ほどの樽熟成が主流となっているが、ゆっくり時間をかけることにより落ち着いた複雑なワインが生まれるのだ。
 

自然の力でゆっくりと乾燥させていくので、ブドウも穏やかに変化

 
2010は比較的冷涼なヴィンテージで優美極まりないアマローネが生まれた。今アメリカ市場で成功している残糖が高く濃厚なスタイルとは対極にある品格高きアマローネで、まさにベルターニ・スタイルを鮮やかに表現している。天候に恵まれた2009は偉大なヴィンテージで、華やかで、凝縮感があり、素直に美味しく、誰にでも愛される魅力を持つアマローネだ。両方に共通するのはビロードのような上品な口当たりと、落ち着いた味わいで、うっとりさせる魅惑的ニュアンスを持つ。最近目に付くポートワインを想起させるワインバー向きアマローネではなく、ブルゴーニュやバローロに近いエレガント・アマローネで、食卓で真価を発揮するワインである。

20年熟成させた2000は今まさに飲み頃に入りつつある。暑いヴィンテージだが、過熟のトーンは全くない。ベルターニ社のアマローネ・クラッシコは非常に熟成がゆるやかで、今でも1960~70年代のものが素晴らしい状態であるが、この2000もまだ若々しく、バランスが全く崩れていない。深みのある果実味と包み込むような口当たりが素晴らしく、かすかに混ざるスパイシーなニュアンスがとても魅力的だ。流行に影響されず全くぶれないベルターニ社のスタイルはアマローネの本来の魅力を私たちに伝えてくれる。国際的大成功によりアマローネが商業化しすぎた今、その古典性はとても輝いて見える。
 

【テイスティングしたワイン】
ソアーヴェ・ヴィンテージ・エディション 2016 (4,114円)
セッコ・ベルターニ・ヴィンテージ・エディション 2015 (4,488円)
ヴァルポリチェッラ・リパッソ 2016 (3,759円)
“カトゥッロ” ヴァルポリチェッラ・リパッソ・クラッシコ・スペリオーレ 2016 (5,292円)
アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 2009、2010 (各16,774円)
アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ 2000 (参考商品)
※すべて参考価格(税込)です
 
 
Photo:Kentaro Ishibashi
Text:Isao Miyajima

ワインの輸入元:モンテ物産株式会社
ベルターニHP:https://www.montebussan.co.jp/wine/bertani.html