1971年の名曲とともに 50年前にたちまちタイムスリップする、パイパー・エドシックの番外編
50年前の赤ワインならさほど珍しくもないが、50年前のシャンパーニュは稀。パイパー・エドシックが71年のスペシャルキュヴェをリリースした。
1971年といえば、いまから50年前。アポロ14号が3度目の月面着陸に成功し、ジョン・レノンが名曲「イマジン」を発表した年でもある。
パイパー・エドシックのシェフ・ド・カーヴを務めるエミリアン・ブティヤはメゾンのセラーで半世紀にもわたって寝かされていたボトルを発見。それを開けたところ、いまこそデゴルジュマンすべき最高のタイミングと判断した。かくして特別にリリースされることになったのが「オール・セリィ 1971」だ。
オール・セリィとは雑誌の増刊号、あるいは物語の番外編で、シャンパーニュならば通常のラインナップからは外れたスペシャルキュヴェ。「卓越性があって模範となり、少量生産でほかに類するもののない独自性をもつもの」とメゾンでは定義している。したがって今後もオール・ セリィの名前で新たなキュヴェがリリースされる予定だが、必ずしも今回と同じようにオールドヴィンテージとは限らない。第二弾は単一区画の単一品種の可能性もあるようだ。
さて、この71年をアッサンブラージュしたのはエミリアンより3代前のシェフ・ド・カーヴ、クロード・ドゥミエール。いまも存命のクロードからエミリアンが直接聞いた話によると、これは当時のメゾンの最高峰「キュヴェ・フローラン・ルイ」としてティラージュされたもの。12のグラン・クリュとプルミエ・クリュのブドウのみが用いられ、ピノ・ノワールとシャルドネの比率はほぼ半々。マロラクティック発酵は行なわれていなかったという。
81年、91年、01年、それに11年と、1のつく年はヴィンテージが造られないむずかしい年が多いけれど、71年は例外的な当たり年。霜や雹の被害を被ったものの、収穫直前から温かな晴天が続き、質の高いブドウが収穫できた。
グラスに注いでみると気泡はほぼ目視できないが、口に含むとごくわずかな炭酸が感じられる。それよりも驚かされるのが、50年という歳月を感じさせない快活さ。ノンマロラクティックゆえの高い酸と熟成中の澱が酸化から守ってくれたようだ。
生産量はわずか2021本。当時のヒット曲を聴きながらこのシャンパーニュを味わえば、たちまち71年にタイムスリップする。ちなみに昭和46年、日本でのヒット曲は小柳ルミ子「私の城下町」である。
パイパー・エドシック
オール・セリィ 1971
Piper-Heidsieck
Hors-Série 1971
デゴルジュマンは21年2月。マロラクティック発酵を施していない19年のシャルドネをリキュールのベースに用い、ドザージュは10g/ℓ 。もともとのシャープな酸やミネラル感と絶妙のバランスを取る。老いを知らないその快活さに脱帽。ギフトボックスはこのキュヴェと同じく、50年の樹齢を経たオーク材を削って作ったもの。(71,500円)
Emilien Boutillat
エミリアン・ブティヤ
1987年、シャンパーニュ地方出身。海外のワイナリーで研鑽を積み、12年に帰国。18年、パイパー・エドシックのシェフ・ド・カーヴに就任。21年のIWCスパークリングワインメーカー・オブ・ザ・イヤー選出。写真は、2021年9月にフランスで行なわれた発売イベントの様子。
[お問い合わせ先]
日本リカー株式会社
Tel:03-5643-9770
https://www.nlwine.com
Photo : Yosuke Owashi (bottle)
Text : Tadayuki Yanagi