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2022.01.26
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アブルッツォワインの存続と発展の立役者、ブドウ農家を支える生産者協同組合

アブルッツォだけでなくイタリアを代表する生産者協同組合のひとつであるカンティーナ・トッロ(以下トッロ)。その目覚ましい成功の背景には妥協なき高品質の追求、地元の伝統の尊重、未来に対する明確なヴィジョンがある。

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■いまに続く、アブルッツォワインの発展に寄与

イタリア中部のアドリア海側に位置するアブルッツォ州は優れたワイン産地であるが、昔はバルクワインとして売られることが多かったために、知名度は高くなかった。1990年代以降ようやく瓶詰めをする生産者が増え、州外でもその真価が知られるようになった。とくにモンテプルチャーノは豊かな果実味をもち、太陽を感じさせる濃い赤ワインとして人気が高く、この10年で輸出が倍増するなど目覚ましい伸びを示している。

アブルッツォワインの成功を牽引しているのが生産者協同組合だ。小規模なブドウ栽培家が多いアブルッツォでは、農家の力を結集してくれる生産者協同組合の役割は重要だ。その中でも規範的組合として国際的にも高い評価を得ているのがトッロである。

トッロが創設されたのは1960年のこと。当時アブルッツォは貧しく、ブドウ栽培で生計を立てることは困難で、多くの農民が畑を捨てて、大都市や外国に移民として働きに出た。それによりブドウ栽培、ワイン造りの伝統が失われてしまった。まさに暗黒の時代だった。

トッロも創設時のメンバーはわずか40名だったが、明確な戦略をもち、的確な運営をすることにより、着実に成長を遂げた。いまでは組合員は700名に増え、管理するブドウ畑は2700ヘクタールと広大で、年間生産量は1400万本近い。生産量の33%を46カ国に輸出している。トッロのおかげで生計を立てることができるようになったブドウ栽培家は地元に残ることができ、栽培、醸造の伝統が守られたことは重要な功績である。

トッロの成功によりキエーティ県はアブルッツォのブドウ栽培の中心となったし、08年には小さなトッロ村を産地とするDOCトゥッルムが誕生し、19年にはDOCGに昇格している。農家に収入を保証し、地元経済を支え、地域社会の崩壊を防いだだけでなく、村を大きく発展させたというわけだ。

■伝統と革新から生まれる、汎用性の高いワインの数々

トッロ村はアドリア海の美しい街ペスカーラから海岸沿いに車で半時間ほど南下した丘の上にある。畑はアドリア海岸沿いからアペニン山脈の麓まで広がり、テロワールは多様だ。それを組み合わせることにより品質が安定するし、さまざまなワインが生まれる。気軽に楽しめるお手頃価格のデイリーワイン、フレッシュな白ワイン、濃厚だが親しみやすいモンテプルチャーノ、長期熟成向きの偉大な赤ワインなど、すべての好み、TPOに対応できることがこの組合の強みだ。

アドリア海に近いブドウ畑は温暖な地中海気候と海風の影響を受け、豊かで優しいワインが生まれる。アペニン山脈の麓ではフレッシュで、厳格なワインが生まれる。海にも山にも近く、つねに風が吹いているのでブドウは健全に育ち、有機栽培に適した産地でもある。アペニン山脈に近いため夜の温度が下がり、ワインは濃厚ながらもつねにフレッシュさと適度のミネラル感を保持していて、それがとても魅力的だ。

地元の伝統も尊重している。アブルッツォの伝統的仕立て法である棚式のテンドーネの古木を多く残しているのはその一例だ。2メートルの高さに枝を広げるテンドーネは土壌の乾燥を防ぎ、強い太陽からブドウを守る。アブルッツォはブドウが自然に凝縮する恵まれた産地なので、フランスから導入したグイヨ仕立てだと、ブドウが凝縮しすぎてバランスが悪くなるそうだ。もちろん適切な摘房は行ない、ブドウの樹1本あたりの房を6~10以下に抑えている。

醸造においても最先端の技術や設備を導入する一方、60年代から使っているセメントタンクや、5000ヘクトリットルの大容量ステンレスタンクもうまく使いこなしている。

91年から有機栽培を始め、いまは生産量の10%がビオワインだ。20年にはカラフルなラベルの“ビオロジコ”のラインも誕生した。広い意味での持続可能性(経済、社会、環境)にも注意を払っていて、未来に対するヴィジョンも明確だ。

60周年を迎えた20年には会長トニーノ・ヴェルナの英断により、持ち込んだブドウの重量ではなく、ヘクタール当たりで組合員への配当を決めることにした。組合員は大量のブドウを生産する必要がなくなり、栽培専門家が指示する適量のブドウを生産し、高品質を保つことができるようになった。それだけでなく、組合員のメンタリティーも変わり、高品質哲学が共有されるようになったという。

■代表的ワイン2種

トッロのワインはイタリアを代表する評価本ガンベロ・ロッソの最高評価であるトレ・ビッキエーリを毎年獲得しているだけでなく、国内外のコンクールでもつねに高い評価を得ている。まさに躍進するアブルッツォワインの顔である。

カジオーロ モンテプルチアーノ ダブルッツォ リゼルヴァ 2014
Cagiòlo Montepulciano d’Abruzzo Riserva 2014

凝縮感のある香りは黒イチゴ、チェリー、バニラ、スパイス、カカオを感じさせる。味わいも濃厚だが、酸がしっかりしていて、なめらか。トッロ村の標高130mに広がる南~南東向きの斜面地の畑に育つ樹齢25~30年のモンテプルチアーノを10月中旬まで待って収穫。長めのマセラシオンを行ない、新樽率100%のアリエ産バリックで18ヵ月間熟成、さらに12カ月間の瓶熟させた野心的なモンテプルチャーノ(4,400円)。

エンメオー モンテプルチアーノ ダブルッツォ リゼルヴァ 2016
MO Montepulciano d’Abruzzo Riserva 2016

ダークチェリー、クワの実、プラムの香りに少しバニラが混ざる。味わいはみずみずしく、タンニンはやわらかい。スケールが大きい近代的スタイルのモンテプルチャーノ。標高130m~200mに広がる南~南東向きの斜面の畑の樹齢25~30年のモンテプルチアーノを10月中旬まで待って収穫。25hℓのスラヴォニアオーク大樽で24カ月間熟成。ほぼ毎年トレ・ビッキエーリを獲得するなど評価も高い。コストパフォーマンスも抜群(2,750円/輸入元:ともに徳岡)。

Text:Isao Miyajima