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2022.03.11
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マルチ・ブレンディングの精髄を極める ペンフォールズ 新コレクション発表と「大陸間ブレンド」クアンタムの衝撃

 1月31日、マンダリン オリエンタル 東京にてペンフォールズの新コレクションが堂々発表され、世界をリードするそのワイン哲学が、余すところなく明らかにされた。

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マルチ・リージョンと
マルチ・ヴァラエタル

ペンフォールズといえば、豪州随一の伝統的銘柄、グランジで知られる。初代チーフ・ワインメーカー、マックス・シューバートが1951年に生み出した、天地をひっくり返すような革新的銘柄だ。斬新すぎたゆえに市場に受け入れられず、ワイナリーから製造中止命令を受けたシューバートが、3年間内密に製造を続けた逸話はつとに有名である。

グランジは、世界中のアイコン・ワインたちの中では特異、あるいは唯一無二な存在である。ほかの銘柄たちが、単一畑またはひとつの地域のブドウだけを原料にしていることが多いのに対し、グランジは広大な南オーストラリア州各地に広がるペンフォールズの畑のブドウの中から、毎年最良のロットを入念に複数選んで仕込まれる、「マルチ・リージョナル・ブレンド」のワインなのだ。

目的はシンプルで、最高品質のワインを造ること。そのために、区画や地域に縛られることなく、フリーハンドで芸術を創造しているのである。このブレンド哲学は、リージョンだけにとどまらない。銘柄よっては、複数ブドウ品種が用いられた「マルチ・ヴァラエタル・ブレンド」の手法も取り入れられている。

1844年までさかのぼる、アデレード・ヒルズに建てられた
本拠地マギル・エステート。 


(左)バロッサ・ヴァレーの自社畑に残る、1880年代に植えられた
カベルネ・ソーヴィニヨンの樹は世界最古(カリムナ・ブロック42)。
(右)エステート内の樽貯蔵庫。アメリカンオーク樽の積極的な使用も、
ペンフォールズの輝かしき伝統。


このたび日本で発表された新コレクション5銘柄と新商品クアンタムは、すべてマルチ・リージョナル・ブレンド。年によってブレンドの違いはあるものの、今ヴィンテージのグランジ、ビン407、ヤッターナは単一品種のワインである。クアンタムとビン389は、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーズをブレンドしたマルチ・ヴァラエタル・ブレンドだ。

この日の発表会は、新型コロナウイルス感染症対策を
充分に講じて実施された。
オンラインで現地から参加した醸造家ステファニー・ダットンとは、
出席者とのあいだで活発な質疑応答、議論が交わされた。


シャンパーニュメゾンのハウススタイルをもっともよく体現しているのが、マルチ・リージョン、マルチ・ヴァラエタルのノンヴィンテージであるのと同様に、「ビン389こそが、ペンフォールズのハウススタイルを体現するもの。働いている人たちの心が表われています」と、当日オンラインで登壇したシニア・ワインメーカーのステファニー・ダットンは述べた。

醸造家ステファニー・ダットンが語る、
ハウススタイルと哲学

この「マルチ・リージョナル、マルチ・ヴァラエタル」のワイン造りこそが、ペンフォールズが世界に誇る、輝かしきハウススタイルを生み出すための重要な哲学なのだ。ステファニー・ダットンは、その起源について次のように説明した。「ペンフォールズのブレンド哲学は、同社が酒精強化ワインの製造からスタートした伝統に根ざしたものなのです。スタイルと品質が安定し、一貫して高く保たれますが、同時にヴィンテージの個性がつねに考えられています」。

ステファニー・ダットン/Stephanie Dutton
ペンフォールズ シニア・ワインメーカー。
ワイン醸造学修士を取得後、2007年に入社。10年より赤ワイン醸造チームに加わり、
10年間のキャリアを積んだのちにシニア・ワインメーカーに就任。


快活に語るダットンの笑顔はじつにチャーミングだが、時折厳しい職人のまなざしが見え、口元が引き締まる。4代目チーフ・ワインメーカー、ピーター・ゲイゴの片腕として働くダットンは、収穫期になると毎朝200ロット以上、発酵中のワインをテイスティングするという。画家がパレットに載せた色とりどりの絵の具を眺めるように、ダットンも試飲をしながらのちのブレンディングのイメージを醸成させていく。

「シングル・リージョンのワインはソロ・アーティストの歌声。それに対して、マルチ・リージョンのワインは合唱団の歌声なのです」と、ほほえみながらダットンは語った。

驚天動地の大陸間ブレンド、
クアンタム新登場

このマルチ・リージョナル・ブレンドの哲学を、極限まで追求したすえに編み出されたのが、「大陸間ブレンド」のクアンタムである。ウルトラ・プレミアム・ワインとしては、おそらく世界初の試みであろう。ペンフォールズがカリフォルニアでブドウ栽培を始めたのは、1998年からだからもう四半世紀近くが経っているのだが、今回はじめて市場にリリースされたカリフォルニア・コレクション4銘柄のうちのひとつがクアンタムである。
 
ナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、南オーストラリア産のシラーズをブレンドしたこのワインには、フラッグシップのグランジに次ぐ高価格が付けられた。ナパ・ヴァレー産のブドウも、ヴァレー・フロアとヒルサイド双方、合計4地域のものがブレンドされている。

「ナパのカベルネには、たぐいまれで目を見張るようなタンニンの個性があります。その素材を用い、ペンフォールズ伝統のアメリカンオーク樽での発酵によって、なめらかな口あたり、チョコレートやコーヒーの個性、あざやかな果実味といったハウススタイルを表現しました」と、このプロジェクトをピーター・ゲイゴとともに見守り続けてきたダットンは説明してくれた。驚愕のブレンド・コンセプトと、驚異の高品質に瞠目せねばなるまい。

この日試飲に供された6種類のワインは、いずれもペンフォールズのハウススタイル、
ワイン造りの哲学が体現されたもので、個性と品質に秀でる。



▼トップソムリエとMW。識者がとらえたクアンタム

ペンフォールズの新銘柄クアンタムを、世界に名だたる専門家たちはどう受け止めたのか。異なる視点から語ってもらった。

大橋健一 MW/Kenichi Ohashi MW
株式会社山仁(山仁酒店)代表取締役社長。
日本在住の日本人として、世界最難関のワイン資格、
マスターオブワイン(MW)の称号を2015年に初めて取得。
世界のワインと日本の国酒に通じる。

昨今は、気候変動などが原因で年による産地の浮き沈みが激しい。だから母国の産地をベースにしつつも、保険の意味で他国の産地をもつのは重要。それで品質が向上するのならこうした手法の大いなる肯定要素にはなるであろう。他国間ブレンドには通貨の浮き沈みのリスクをヘッジするメリットも。またペンフォールズのようなトップ生産者が最高クラスのワインでこうした新しい試みをしてくれると、もっとリーズナブルな価格帯のワインを造る生産者も挑戦しやすくなる。完璧に新しい味のワインが出現する扉をペンフォールズが開いてくれた。


野坂昭彦/Akihiko Nosaka
マンダリン オリエンタル 東京 シェフソムリエ。
国内外のラグジュアリーホテルやレストランでソムリエとして
20年以上の経験を積む。
2015年アジア・オセアニア・ソムリエ・コンクール日本代表。

総じて、ペンフォールズ独自の哲学に改めて感じいった試飲であった。クアンタムは、ナパと南オーストラリアというふたつの異なる個性が緻密かつ繊細に融合しており、まったく新しいスタイルのワイン。ワインのサービスは、デキャンタージュによりワインの均一化と香りと味わいに広がりをもたせることで料理に合わせたい。グランジとは異なる個性のボルドーのトップシャトーを彷彿させる精巧さがあるので、調理に時間をかけて仕込んだフランス料理、いまの季節であれば蝦夷鹿のロースト、グランヴヌールソースなどと合わせてみたい。

▼ハウススタイルに貫かれたペンフォールズ新コレクション

このたび発表された6銘柄は、いずれもペンフォールズのハウススタイルとワイン造りの哲学が、くっきりと表現された逸品ぞろい。テイスティングを通じて、その魅力と迫力に肉薄した。

<ワイン1>
ヤッターナ シャルドネ 2019
Yattarna Chardonnay 2019

骨太のミネラルに、ほどよく熟した木なり果実と、甘くトースティな樽香がスリムフィット。緊張感とすばらしい持続性があり、余韻はレーザーのように焦点があったまま、長く続いていく。タスマニア、タンバランバ、アデレード・ヒルズ産シャルドネをブレンド。フレンチオークのバリック(55%新樽)で8カ月熟成。(27,500円)

<ワイン2>
ビン407 カベルネ・ソーヴィニヨン 2019
BIN 407 Cabernet Sauvignon 2019

熟したカシスリキュールを思わせるピュアなアロマ。骨格はあるがとてもエレガント。パッドサウェー、クナワラ、ラットンブリー、マクラーレン・ヴェイル、バロッサ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンド。フレンチオーク(27%新樽)とアメリカンオーク(8%新樽)のホッグスヘッドで12カ月熟成。(13,200円)

<ワイン3>
ビン389 カベルネ シラーズ 2019
BIN 389 Cabernet Shiraz 2019

濃密で奥行きのあるアロマ。すばらしい凝縮感と強健な骨格、ギリギリで制御された力強さ。パッドサウェー、マクラーレン・ヴェイル、クナワラ、ラットンブリー、バロッサ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨン(53%)とシラーズ(47%)をブレンド。アメリカンオークのホッグスヘッド(25%新樽)で12カ月熟成。(11,000円)

<ワイン4>
セント・アンリ シラーズ 2018
ST. HENRI Shiraz 2018

赤系果実、ハーブ、スパイスが折り重なったピュアかつ複雑なアロマ。凝縮感がありながら、羽毛の飛翔感。バロッサ・ヴァレー、マクラーレン・ヴェイル、ポート・リンカーン、ローブ、パッドサウェー、クレア・ヴァレー、アデレード・ヒルズ産のシラーズをブレンド。50年以上使用されている大樽で12カ月の熟成。(16,500円)

<ワイン5>
グランジ 2017
Grange 2017

王位の高みを見せてくれる崇高で峻厳なアロマ。フィネスの奥に圧倒的な迫力とバイブレーション。豪快なタンニンと花火のような果実味の中盤から、炸裂する余韻へと続く。バロッサ・ヴァレー、マクラーレン・ヴェイル産のシラーズをブレンド。アメリカンオークのホッグスヘッド(100%新樽)で18カ月熟成。(132,000円)

<ワイン6>
クアンタム ビン98 2018
Quantum BIN 98 2018

なめらかな果実味とフィネス、爆発的なパワーと複雑性が混声合唱のように一体となった未体験の味。ナパ・ヴァレー産カベルネ・ソーヴィニヨン(87%)と南オーストラリア産シラーズ(13%)をブレンド。アメリカンオーク(80%新樽)のホッグスヘッドとフレンチオーク(20%新樽)のバリックで16カ月の熟成。(110,000円)

[お問い合わせ先]
日本リカー株式会社
Tel:03-5643-9770 
https://www.nlwine.com

Photo : Bungo Kimura
Text : Mineo Tachibana