
熟練醸造家が自然に寄り添うピュア極まりないワイン
旧世界におけるフロンティア、ブルガリアのイメージを大きく覆す特異点が、この国の北西部で生まれている。その名はボロヴィッツァ。無難な工業的ワインが群れをなす中で光るその作品は、自然をなによりも尊重する姿勢から生まれている。

ボロヴィッツァ・ワイナリーが同名の村に所有する10ヘクタールの畑は、24億年前に生まれた巨大な奇岩(下写真)で知られるベログラトチク村にほど近い位置にある。その土壌は、この奇岩と同じ赤い石や砂を多く含み、水はけに優れる。標高280〜580メートルに位置する南向きの斜面で、付近のバルカン山脈から夜風が吹いてくるため夜温が下がる。高品質なブドウ生産に必須である昼夜の大きな寒暖差が得られるわけだ。
2005年、共同経営者の導きでこの土地にやってきたアドリアナ・スレブリノヴァは、「造り手の夢がここにあった」と述懐する。同村には、1980年まで大きな協同組合の畑があったが、その後は未開の土地に戻っていた。

アドリアナ・スレブリノヴァ/Adriana Srebrinova
スレブリノヴァがワイン醸造家としてのキャリアをスタートさせたのが、同じ80年だ。当時はソ連の強い影響下にあり、没個性で味気ないワインを、赤い大国のいいなりになって大量に造るしかなかった。彼女は飽いた。「その土地らしさをそのままの形で表現したワインを、そして自分の哲学、自分の署名、自分の意見が入ったワインを、心底造りたいと思った。それは自分の一部でもあるから」。そう願い続けた末に、ボロヴィッツァ村に出逢った。

景色に溶け込む美しい畑では、認証は取っていないものの、
実質的な有機栽培が行なわれている。
テロワールの表現を最大化するために、収量は厳しく制限されている。
「自分の顔、自分のビジョンをもつワイン」を仕込むため、人為的介入は最低限にとどめている。果汁やワインの移動はポンプを使わずすべて重力、亜硫酸もほとんど入れない。それでもワインはとてもクリーンだ。その秘密は「この土地が生み出す健全なブドウにある。自然はすべてを備えている存在で、人がその上を行くことなどできない」とスレブリノヴァは述べる。彼女はいま、夢の土地での夢のワイン造りを生きている。
■ワイン紹介
左)
コレクション カベルネ・ソーヴィニヨン 2018
Collection Cabernet Sauvignon 2018
中左)
コレクション ガムザ 2018
Collection Gamza 2018
中右)
リミテッド・シリーズ ガムザ ロゼ 2021
Limited Series Gamza Rosé 2021
右)
リミテッド・シリーズ トップ・オブ・ザ・ヒル 2020
Limited Series Top of the Hill 2020
いずれもピュアかつ繊細な味わいで、デリケートな中盤から軽やかな余韻へとつながる流れが感情をかきたてる。「コレクション カベルネ・ソーヴィニヨン 2018」は亜硫酸無添加で仕込んだ意欲作だが高い完成度。土着品種ガムザを使った「コレクション ガムザ 2018」は、グラスからあふれ出すピュアな赤系果実のアロマが印象的。同じ品種のロゼ「リミテッド・シリーズ ガムザ ロゼ 2021」もオススメだ。「リミテッド・シリーズ トップ・オブ・ザ・ヒル 2020」はマルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエのローヌ・ブレンドで、柔らかなテクスチャーが赤同様に美しい。(ワインの価格/左から、2,475円、2,585円、2,750円、2,915円)
[お問い合わせ先]
株式会社モトックス
Tel:0120-344101
https://www.mottox.co.jp
Text : Mineo Tachibana