シャンパーニュ ボランジェ、3つの新たなプレステージ・キュヴェをリリース
去る9月28日、シャンパーニュ地方アイ村にあるシャンパーニュ ボランジェのメゾンにて、新キュヴェのリリースイベントが行なわれた。外国から多くのプレスを招いた華やかなイベントは、フランスでの本格的なコロナ禍の収束を実感させるに足るものであった。
この日、お披露目されたシャンパーニュは以下の3本。
左から、ピー・エヌ ティー・エックス17(PN TX17)、ラ・コート・オー・ザンファン 2012(La Cotê aux Enfans 2012)、ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ 2013(Vieille Vignes Françaises 2013)。
それぞれのワインの話をする前に、メゾンについての話をしておこう。
シャンパーニュ ボランジェは1829年にアイ村にて創業した、家族経営の独立系メゾン。総畑面積は178ヘクタールであり、そのうちのじつに80%がグラン・クリュ、プルミエ・クリュである。
このメゾンの立役者として知られるのが、1941年に夫の死後、家督を継いだエリザベス・ボランジェ女史である。モンターニュ・ド・ランスにおいて、ピノ・ノワールの味わいを前面に出した、力強い「ボランジェ・スタイル」を築いた。今回リリースされた3つのキュヴェは、すべてピノ・ノワール100%。それだけに、メゾンの魅力が濃密に表現されたアイテムだといえる。
当日は、試飲の前に、それぞれのワインの生まれた畑をめぐる機会に恵まれた。
まずは、ピー・エヌ ティー・エックス17を生んだ、トーシエールの畑へ。「PN TX17」の名前を紐解くと、PNはピノ・ノワール、そしてTXはトーシエール(Tauxières)を示す。17はベースワインのヴィンテージである。トーシエールはアイ村の北東に位置する区画。ピー・エヌ ティー・エックス17では、この区画のブドウを多く使用。ちなみに同じPNシリーズでは、15年、16年それぞれをベースにヴェルズネの区画のブドウをメインに用いて、名前にヴェルズネを意味するVZがつけられたものがリリースされている。
トーシエールの区画では、レ・ジョリ(Les Jolis)とレ・ヴィニュル(Les Vigneulles)の畑を訪れた。
このふたつの区画はともにトーシエールに位置するのだが、おもしろいことに土壌の構成がまったく異なっている。
一見してわかるように、色からして違う。レ・ジョリは石灰岩質土壌、そしてレ・ヴィニュルは頁岩質土壌である。わずか17ヘクタールのトーシエールの中にさえ、このような土壌に違いが見られるのだから、同一区画のブドウを使用したと言っても、その香りと味の複雑さは想像に難くないだろう。
上述のように、ピー・エヌ ティー・エックス17はトーシエールのブドウを多く用いたピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワール。ベースワインは2017年収穫で、一番搾り果汁のみを使用。高い酸と緊張感を誇り、最長11年ものあいだマグナムボトルで熟成されたリザーヴ・ワインが複雑さと力強さを与える。ドザージュは4g/ℓ。
次に向かったのは、ラ・コート・オー・ザンファン。
熱心なボランジェ・ファンならば、この名前に必ずや聞き覚えがあるはずだ。エリザベスの夫である3代目当主ジャック・ボランジェが、1926年から34年にかけて、50もの小さな区画を根気強く買い集めた4ヘクタールのモノポール。この区画の南部分から採れる優れたピノ・ノワールは、この区画の名前で赤ワイン(コトー・シャンプノワ)としてこれまで発表されていた。
しかし今回、わずか2ヘクタールの北部分で育った2012年産のブドウを使用し、グラン・クリュのピノ・ノワール100%(ブラン・ド・ノワール)のヴィンテージ・シャンパーニュを造ったのである。瓶内熟成は7年間。リッチで堂々したした風味と味わい。この土地の可能性を信じていたジャックの想いは、ここに完成した。ドザージュ8g/ℓ。
最後に訪れたのは、ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズを生み出す、メゾンの敷地内にある壁に囲まれた区画、クロ・サン・ジャック。ここに植えられているのは、フィロキセラ禍を生き延びた自根、接木無しのピノ・ノワールの樹たち。メゾンの生き証人ともいえる畑だ。
クロ・サン・ジャックの畑では、蔓を直接地中に埋めて、新しい枝を出す「プロヴィナージュ」と呼ばれる伝統的方法で樹を増やしている。また、植樹の方法もきっちりとした列をなさない「オン・フール」という手法が取られている。
3区画あった自根の区画も、いまではこことショード・テールの2区画のみとなった。フィロキセラの害はいつでも起こり得るものであり、この畑が残っていることは奇跡と言っても過言ではない。
この樹々の生命力に敬意を表し、今回の2013年ヴィンテージではボトルデザインを一新。フランス国旗とブドウの樹がモダンにデザインされている。グラン・クリュのピノ・ノワール100%(ブラン・ド・ノワール)、ドザージュ6g/ℓ。繊細なフルーツとナッツの香り、力強く、深淵で複雑な味わい。わずか2477本のみ販売、各ボトルにはナンバリングが施されている。
さらに当日は、マネージング・ディレクターのシャルル=アルマン・ド・ベレネより、2029年に迎える、シャンパーニュ ボランジェ200周年に向けた大きなリノべーションプランの発表があった。
現在のワイナリーを大幅改造し、世界中からワインラバーを迎え入れるワインツーリズムを始めるというのだ。現在計画されている新たな施設には、熟成樽5000個が置かれるという。ワイナリーツアーはもちろん、レストランやショップも併設。20室のホテル客室も設けられ、宿泊も可能でスパやプールなどもあり、シャンパーニュ ボランジェでの滞在を満喫できるという。オープン予定は2026年7月。いまは静かなグラン・クリュの村アイに、新たな風が吹くことだろう。
■商品情報
PN TX 17
ピー・エヌ ティー・エックス17
価格:18,700円(税込)
La Cotê aux Enfans 2012
ラ・コート・オー・ザンファン 2012
価格:192,500円(税込)
Vieille Vignes Françaises 2013
ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ 2013
価格:242,000円(税込)
■お問い合わせ先
WINE TO STYLE株式会社
TEL:03-5413-8831
https://www.winetostyle.co.jp
Text & Photo : Eriko Yoshida