3つのヴィンヤードの特徴を引き出す ノース・カンタベリーのナチュラリスト
ワイナート2023年10月号(114号)では、巻頭特集にて「ピノ・ノワールの新天地 ニュージーランド」と題した記事を掲載。セントラル・オタゴを中心にノース・カンタベリーも取り上げ、代表的な12生産者を紹介している。その中のひとつ、ブラック・エステートの記事を抜粋してお届けする。
セラードアとレストランが隣接するホーム・ヴィンヤード。
ニュージーランドでもいま、カジュアルに楽しむ食前のスパークリングとしてペットナットが人気のようだ。
「2017年にネザーウッド・ヴンヤードのシャルドネで始め、現在はヴィンヤードごとに3種類のペットナットを造っています」と、ブラック・エステートのオーナーでワインメーカーのニコラス・ブラウンは言う。
ブラック・エステートは94年、ラッセル・ブラックがノース・カンタベリーのオミヒに設立したワイナリー。それを07年、ニコラスのパートナーであるペネロペ・ナッシュの家族が買い取った。
最初に入手したホーム・ヴィンヤードに、10キロ北にあるダムスティープ・ヴィンヤード、その中間に位置するネザーウッド・ヴィンヤードを加え、現在、約23ヘクタールのブドウ畑を所有。ネザーウッドはダニエル・シュースターとラッセル・ブラックが年に86植樹したノース・カンタベリーでもっとも古いブドウ畑である。オーガニックおよびバイオダイナミック農法を実践し、バイオグロの認証を取得。目下、デメターも申請中だ。
3つのヴィンヤードはそれぞれ土壌が異なり、ホームはおもに堆積した粘土。ダムスティープは粘土に砂岩や石灰岩が混じり、ネザーウッドはワイパラ・グリーンサンドと呼ばれる緑灰色の砂岩が風化した砂だ。さらに標高や斜面の向き、植密度に樹齢、植えられているクローンや台木のあるなしなど、さまざまなファクターが異なっている。
メインはどの畑もピノ・ノワールとシャルドネだが、ダムスティープにはリースリングが、ホームのトップブロックにはカベルネ・フランとシュナン・ブランも植えられている。
ピノ・ノワールの醸造は、各ヴィンヤードごとに自生酵母によるピエ・ド・キューヴを作り、それを発酵のスターターとする。基本的に完全除梗だが、破砕はせず、なるべく全粒での醸造を心がけている。「セミカーボニック・マセレーションが起こり、香りが広がる」とニコラスは言う。
ホームのピノ・ノワールは粘土質土壌らしい力強さに、炭酸カルシウムを含むトップブロックのブドウがミネラルをもたらす。標高がやや高く、石灰岩と砂岩を粘土が覆うダムスティープはテンションが高く、砂岩土壌のネザーウッドはフレグラントで赤い果実のアロマが特徴的だ。
いずれのワインも無清澄無濾過で亜硫酸の添加もごくわずか。キュヴェによっては亜硫酸無添加とナチュラル志向だが、ファンキーな印象は微塵もない。安心してすすめられるニュージーのナチュラルワインだ。
■ブラック・エステート(Black Estate) ワイン3種
右)
Home Pinot Noir 2020
ホーム ピノ・ノワール 2020
完全除梗。10/5 のほか、エイベルやUCD5、ディジョン・クローンも。醸しは1日1回、果帽を濡らす程度のポンプオーバー。古樽で12カ月熟成。集中力があり、角は丸いがしっかりした酸。ウエイトも充分に感じられる。
中央)
Damsteep Riesling 2021
ダムステイープ リースリング 2021
08年は45g/ℓの残糖があったが、現在は3.8g/ℓのドライ。全房圧搾後、600ℓの古樽で発酵。MLFも自発的に起きている。 8カ月間澱とともに熟成。シトラス、ハニーのアロマ。まろやかな酸味。アフターに食欲をそそる心地よいビターネス。
左)
Netherwood Pét-Nat 2022
ネザーウッド ペットナット 2022
22年は雨の年で、ネザーウッドで造ったのはペットナットのみ。ピノ・ノワールとシャルドネの混醸で、発酵途中で瓶詰めし、瓶内で発酵完了。9カ月の瓶熟成。タマネギの皮のような淡い色調。ピュアな酸味にドライなフィニッシュ。
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株式会社ラック・コーポレーション
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Photo:Bungo Kimura
Text:Tadayuki Yanagi