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2023.12.12
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グラン・メゾンのソムリエが考える
ブルゴーニュ新時代

多彩なワインを日々取り扱うソムリエたちは、昨今のブルゴーニュワイン事情をどのようにとらえているのか? フレデリック・マニャンのワインの印象も合わせ、現場目線で対談!

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井黒 ブルゴーニュは2018、19、20年と3年連続で温暖化の影響をガッツリと受けていて、ワインの味わいは、僕らが仕事を始めた頃に感じたものとはまったくの別物です。アルコール16パーセントのエシェゾー2020を見たときには、衝撃を受けました……。

池田 いまや人的介入なしでいいワインは造れない。気温上昇による病害も増えているし、ブドウの成熟度が上がることで、前はそれほど味わいに感じなかったタンニンも、感じるようになってきました。

井黒 従来のテロワール概念が破壊されつつありますね。

池田 ブラインドテイスティングで、ブルゴーニュでもピノ・ノワールでもないと確信したワインがシャンボール・ミュジニィ2020だったことがありましたよ(苦笑)。

井黒 価格にも現れていて、20年のメオ・カミュゼでは、プルミエ・クリュのオー・ブリュレがグラン・クリュのクロ・ド・ヴージョを超える高価格。温暖化の影響が顕著な近年は、斜面上部の畑に注目が集まっています。ブルゴーニュをお客様に説明するとき、最近は土壌より標高や地勢を話したほうががわかりやすいと思っているんです。ブドウは地表に実るから、太陽や雨、風などの影響をダイレクトに受ける。目に見えるものを語るほうが納得していただきやすい。

池田 お客様がワインを選ぶとき、最初に生産者名をおっしゃる方も増えましたね。

井黒 生産者自体もスタイルを選択するようになってきて、テロワールからピープルファーストに移行してきた。だから当店のワインリストも、生産者ごとの記載に変えました。

池田 スタイルでは、樽を全面的に出さない生産者が増えています。フレデリック・マニャンも、最初に飲んだ頃は樽風味が強く肉厚でしたが、14年からは一部にジャー(アンフォラ)を使うなど醸造自体も変化していて、随分印象が変わりました。

井黒 僕が思うフレデリック・マニャンのイメージは、いい意味で均一ではない。数多くのアペラシオンのワインを造り、味わいもさまざま。今回のテイスティングでも、フィロソフィの一貫性は明確だけど、伝わりづらい部分が若干あるかなと感じました。でも、ブルゴーニュをきちんと理解していないと選べないような、ツウ向きのコレクションこそが魅力だと思います。

池田 畑から携わり、つねに改革を推進している新しいタイプのネゴシアンですよね。ラインナップの豊富さこそ、ウリにできる。

井黒 ワインの楽しみのひとつには、ボトルの外見もあると思うんです。「太陽と月のマークってなんだかわかります?」という会話からお客様との距離が縮まり、生産者に興味をもつきっかけにもなる。ラベルも華やかだし、価格的にも使い勝手のいい生産者ですね。

井黒 卓/Taku Iguro
ミシュラン三つ星レストラン、ロオジエのシェフ・ソムリエ。2020年、日本ソムリエ協会主催第9回全日本最優秀ソムリエコンクール優勝。
「年ごとの個性が現れ、コントロールしていない造りに好感がもてます」。

池田 大輝/Hiroki Ikeda
マンダリン オリエンタル 東京 アシスタント・シェフ・ソムリエ。ポメリー・ソムリエコンクール2023準優勝。
「スタイルの変化が顕著に感じられ、今後もさらに変わっていくだろうな、という印象です」。

■Frédéric Magnien
フレデリック・マニャンの多彩さを体感する10アイテム

井黒、池田両ソムリエのコメント必読! 畑のテロワール、ヴィンテージ、スタイルの変遷を探るべく、膨大なラインナップの中から10アイテムをテイスティング。

【Iguro’s comments】

(ボトル写真左から)
1)
Chambolle Musigny 1er Cru “Borniques” 2017
シャンボール・ミュジニィ・プルミエ・クリュ・ボルニック 2017
ミュジニィ隣接の1.43ha。陳皮、ダージリンのセカンドフラッシュの香り。しっかりとした芯を携え、エアリーながら地に足がついて奥行き深い。マルチディメンショナル(多面的)という上級のほめ言葉を使いたい。(17,600円)

2)
Chambolle Musigny Vieilles Vignes Jar 2019
シャンボール・ミュジニィ・ヴィエイユ・ヴィーニュ ジャー熟成 2019
標高250 ~350m、ビオディナミ区画のみ。トップノーズから、美しい! 暑い年ながら凛としたフィネスや上品さがあり、芯をもった女性のイメージ。垂直に伸びるフィニッシュで、引っ張ってくるような力強い余韻。(10,230円)

3)
Chambolle Musigny Vieilles Vignes Jar 2018
シャンボール・ミュジニィ・ヴィエイユ・ヴィーニュ ジャー熟成 2018
ほかの年とは違いワイルド! フルーツの凝縮感やリコリス風味、よい年ならではの堅牢なタンニンをもち合わせる。奥にあるアニマルな感じが複雑味を与え、後半にはシャンボール・ミュジニィらしい繊細さも。(10,230円)

4)
Chambolle Musigny Vieilles Vignes Jar 2017
シャンボール・ミュジニィ・ヴィエイユ・ヴィーニュジャー熟成 2017
少し前のクラシックヴィンテージに近い特徴があり、おしとやかでエレガント。紅茶の茶葉やなめし革のニュアンスに、クランベリーなどビビットなフルーツ風味が融合し、第一フェーズに入った印象。(10,230円) 

5)
Chambolle Musigny Vieilles Vignes Jar 2014
シャンボール・ミュジニィ・ヴィエイユ・ヴィーニュ ジャー熟成 2014
14年から約50%をジャー、残りをDRCが2回使用した古樽で熟成。樽の要素が強いが、果実味と調和してまさにいまが飲み頃! ポプリ、紅茶葉、しおれたバラなど哀愁漂う雰囲気で、安心感あるヴィンテージ。(14,300円)

【Ikeda’s comments】

(ボトル写真左から)
1)
Morey Saint Denis Blanc “Les Larrets” 2020
モレ・サン・ドニ・ブラン・レ・ラレ 2020
標高320m、0.5ha。シャルドネ50%、ピノ・ブラン、ビノ・ブーロが混植。冷涼感と成熟度が共存、伸びやかで直線的な酸が塩味とともに流れていく。抜栓直後は酸が際立つが、徐々に柔和さが現れ奥深さを感じる。(7,480円)

2)
Gevrey Chambertin1er Cru “Lavaut St Jacques” Jar 2019
ジュヴレ・シャンベルタン・プルミエ・クリュ・ラヴォー・サン・ジャック・ジャー熟成 2019
0.22haの小区画、ビオディナミ。赤系果実と黒系果実の香りが共存。パウダリーなタンニンでグリップがあり、エアリーながら酸で締まり、高標高地の南向き斜面らしい成熟度。パワフルかつエレガンス。(15,400円)

3)
Vosne Romanée “Aux Champs Perdrix” Jar 2019
ヴォーヌ・ロマネ・オー・シャン・ペルドリ・ジャー熟成 2019
標高260m、ラターシュ上部の0.22ha。ノーブル感、エレガンス、重厚感があり、クオリティが高く、柔らかなテクスチャーで余韻も長い。石灰岩盤上にある急勾配の畑が連想できる玄人向けのワイン。(14,300円)

4)
Morey Saint Denis “Cœur d’Argile” 2017
モレ・サン・ドニ ・クール・ダルジール 2017
標高250m、10区画のブレンド。粘土質を多く含む土壌が主体。凝縮感ある力強い香り。スモーキーさ、土っぽさ、紅茶っぽいニュアンスもあり複雑。味わいも、まろやかさ、柔和さ、優しさ、重厚さなどが共存している。(7,590円)

5)
Clos de Vougeot Grand Cru 2019
クロ・ド・ヴージョ・グラン・クリュ 2019
華やかさとみずみずしさがあふれ、香りで期待値が上がる。標高低めでなだらかな傾斜の地勢を感じる、柔和な果実味。うま味がミドルパレットに乗り上品。厳しさが一切なく、包み込んでくれるような優しい味わい。(30,800円)

[お問い合わせ先]
テラヴェール株式会社
TEL:03-5521-5181
https://terravert.co.jp

Photo:Bungo Kimura
Text:Etsuko Tsukamoto