• Top
  • Feature
  • ドメーヌ・キリノカ 初ヴィンテージ2023年3種の…
2024.02.08
feature

ドメーヌ・キリノカ 初ヴィンテージ2023年
3種のワインを試飲&対談

20年間、日本におけるピノ・ノワールの適地を探し続けたドメーヌ・キリノカ当主の沼田実。ようやく巡り合った長野県霧訪山山麓で丹精込めて育てたピノ・ノワールは、昨年秋、初めて醸されワインとなった。1月上旬、ワイン&日本酒 エデュケーター&審査員の楠田卓也とともに委託元ワイナリーを訪れ、熟成中のワインをテイスティングした。

  • facebook
  • twitter
  • line


■初ヴィンテージは
「ワインづくり研究所」での委託醸造

ワイナリー完成に向け始動中のドメーヌ・キリノカ。2021年に植樹した自社畑のピノ・ノワールから造る初ヴィンテージ2023年のワインは、山梨県山梨市万力にあるワイナリー、ワインづくり研究所での委託醸造だ。

22年にスタートしたワインづくり研究所は、食品製造資材・機器の輸入販売事業を展開するシンワフーズケミカル株式会社に併設された自社モデルワイナリー。自社で扱う異なる個性の酵母を用いたワインを醸造、販売している。

「ワイナリーさんが新しい酵母を探すきっかけになれば、との想いもあり、少量のボトルで、異なる酵母を用いたワインもリリースしています。醸造機器のショールームも兼ねていて、将来的にワイナリーを開業したい方々に醸造設備を実際に使っていただくための委託醸造も受けています。さらに、昨年春には標高850メートルの圃場に苗を植え、機械化による栽培の省力化の実験にも取り組んでいます」と、所長の川上晃。

猛暑だった23年、ドメーヌ・キリノカのピノ・ノワールは10月1日に収穫。収穫時のpHは3.3、Brix(ブリックス)は24にも及んだという。収穫翌日、冷蔵トラックでワイナリーに運び入れ、除梗。破砕はせずそのままタンクに投入し、5度で1週間コールドマセレーション。3日目に15%をロゼ用に引き抜いた。

「昨年は異常に暑かったので、収穫は当初考えていた時期より2週間早かった。例年であれば日中の寒暖差が大きくなる10月の半ば頃に収穫すると、より果実味がのってくる。だからベストではないけれど、病気もなくかなりよいブドウで、ベターだったと思います」と、沼田実は言う。

早速、3種類の熟成中ワインのテイスティングがスタート!

■楠田卓也とともに
まずはロゼワインをテイスティング

沼田 ロゼワインは、セニエ果汁に酵母を加えた翌日に乳酸菌も入れ、アルコール発酵と乳酸発酵を同時に進めるコ・イノキュレーションを採用しています。この製法のよいところは、味わいにフレッシュさが残りやすいこと。数値ではリンゴ酸はゼロなのに、味覚的にイキイキした酸を感じるんです。あまりにシンプルなワインは造りたくなく、ブルゴーニュのブルーノ・クレールが造るようなマルサネ・ロゼを目指しました(笑)。アルコールが高いこと以外は、結構うまくいったかな、と思っているんですけれど、いかがですか?

楠田 とてもよいロゼですね。アセロラやイチゴなど、フレッシュでチャーミングな印象の冷涼系の香り。でも口に含むと、ふくよかでアルコールとグリセリンの甘みがあって、酸は控えめで、優しさや厚みを感じる。人間が本能的に喜ぶ要素がちゃんと詰まっているんですよね。果皮や樽の力も借りていないのに風味豊かで、いかにジュースがよいかが伝わる。確かにもう少しアルコールが低く酸が高ければなとは思うけれど、去年は暑かったから、ヴィンテージによるものかなと。

沼田 ロゼ用のブドウを作っているわけじゃないですからね(笑)。

■赤ワイン2種の比較テイスティング
そして、白熱するディスカッション!

沼田 ひとつめは、ニュイ・サン・ジョルジュの大手樽メーカー、ルソーのミディアム・ライトロースト300リットル新樽で熟成したもの。プレス後、樽内でのMLFが終了するまで亜硫酸は加えていません。

楠田 オークがどこまで覆い隠しているかが、いまは悩ましいですね。アフターになると果物がキレイに出てくるので、今後相当よくなっていくんだろうな、と期待が膨らみます。フレッシュでジューシー、みずみずしいクランベリー、ラズベリーなど赤い小さい果実がありつつ、後半になってきてちょっとレーズンが顔を出す。熟しながらも熟度的に両極の風味が混在する。そこが今後どうまとまっていくか……。

沼田 いまいただいたコメントって、まるでブルゴーニュのグラン・クリュに出てくるフレーズじゃないですか! 私にとっては自分の子供みたいなワインだから贔屓目に見てしまうけれど、最初のプレス時のテイスティングでは、明るい色調、力強さとエレガントさが同居した酒質から、リュショット・シャンベルタンの様だと感じました。

楠田 アフターが軽やかで、香りが上がっていく感じで、下に降りていかない。その点は、ジュブレの村名クラスではないですよ。もっと斜面上部の粘土の少ない畑のイメージです。僕は、そこがキリノカのスタイルじゃないかなと思う。このワインには、余韻がエアリーで香り豊かで、というスタイルがきちんと現れている。そしてアフターがとんでもなく長い。

いままで、日本のワインでこんなにアフターの長いワインに、一体何本出会ったことか……。ブドウの収穫をご一緒したときに、明らかにすごいワインになるなって思ったけれど、いま、テイスティングして、まさにそうだなと。

沼田 ふたつめは、シャサンという家族経営の小さな樽メーカーの228リットル新樽での熟成です。

楠田 これはいまの段階では樽が強すぎて果物を覆っていますね……。でもオークの風味が好きなワインラヴァーたちが多いので、受けるのでは。アフターまでずっとオークが残るので、今後、どうまとまってくるのか、もう少し様子を見ていく必要があるでしょう。

沼田 シャサンの方が骨格あるワインができるような気がします。もちろん、時間はより多くかかると思いますが。どちらかというとニューワールド的かな。

楠田 日本のピノ・ノワールでよく使われる「薄うま」という表現がありますが、キリノカのピノ・ノワールは対極。ボディがしっかりあって、膨らみあって、果物感豊かで。

沼田 本当はもっと軽やかなタイプを狙っていたんです。でも、これもいいと思う。アルコールが高すぎ、ピノにしては可憐じゃない、日本ワインっぽくない、って批評されるかもしれない。でも、ドメーヌ・キリノカがメッセージとして掲げるのは、”醸して自然”。ワインにするからこそ、テロワール、ブドウ、人間といった本質が味わえる。それらをないがしろにする、ということは、私は許せない。

楠田 今後が楽しみですね。大体造り手たちは、栽培と醸造を10年がんばってやっと自分の思うようになってきた、って人が多いですよね。

沼田 私は土地を選ぶのにすでに20年かけているんです。だから、もう少し早いスピード感をもってやっている。ピノ・ノワールに忠実に、このブドウがどうしたら価値を発揮できるか、という環境を整えた結果が、このワインです。テイスティングしてみて、どことなくブルゴーニュっぽさを感じるのは、ピノ・ノワールがブルゴーニュのブドウだというひとつの証明であり、私が選んだ土地がブルゴーニュに近いテロワールなんだな、というひとつの証明でもあると思う。

このワインこそが、20年追い求めてきた結論なんです。日本におけるピノ・ノワールの適地はどこなのだろう、と言う考えからスタートしているので、今日こうして試飲して、間違っていなかったなと、嬉しく思います。

楠田 明らかに日本のピノ・ノワールのこれまでの範疇を超えたワイン。薄い、軽やかな、酸味のキレイな、とは真逆で、果実が主体で、風味豊かで、感性に訴えかけるかのような、ちょっと享楽的なニュアンスをもち始めているワインだなと感じました。

沼田実/Minoru Mumata
株式会社キリノカ代表取締役。オーストラリアワイン専門の輸入商社ファームストンでワインの輸入に携わる。ニュージーランド国立リンカーン大学栽培・醸造学科卒業。今年ワイナリーオープン予定。

楠田卓也/Takuya Kusuda
ワイン&日本酒エデュケーター&審査員。ブルゴーニュ委員会公認ブルゴーニュワイン・エデュケーター。アカデミー・デュ・ヴァン東京校・大阪校講師。『ワイン王国』元副編集長。日本ワインコンクール審査員。インターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドン日本酒共同審査委員長&ワイン審査員。ヴィクトリアン・ワイン・ショー・海外招待審査員。

ワインづくり研究所
住所:山梨県山梨市万力758-1
TEL:0553-34-8772
https://wine-labo.com

■お知らせ
現在、クラウドファウンディング実施中! 返礼品は記事でご紹介をした2種類のピノ・ノワールやロゼに加え、ワイナリーショップで使える試飲券、Winery季刊誌など、22,000円〜110,000円までの6種類。応募締め切りは24年2月末。

GREEN FUNDING:
https://greenfunding.jp/lab/projects/7787

Photo:Junichi Miyazaki
Text : Estuko Tsukamoto