
可能性の宝庫アルト・アディジェのワイン/前編
背後にドロミーティ山塊がそびえ立つ、自然豊かなアルト・アディジェ。この地で誕生する多彩な高品質ワインの魅力と可能性を探る。前編では、イタリアワインに精通する2名のソムリエが産地解説とともに、飲み方、楽しみ方を指南!
日本人が好む味わい
和食、アジア料理とも秀逸
永瀬 土着品種もありつつ国際品種も使用されるアルト・アディジェのワインは、アプローチのしやすさが魅力でもありますね。
林 アルト・アディジェの地形は、氷河の浸食で形作られたもの。氷河の移動によって形成された谷や土壌などにより多彩なテロワールが存在しています。アルプス山脈から吹き下ろす冷涼な風やガルダ湖からの温暖な風が谷を通り抜け、昼夜の寒暖差が大きい。これらにより酸を保持し、アロマを蓄積したブドウが育ち、抑揚あるワインが誕生します。
永瀬 有機栽培がしやすい乾燥した気候で、環境はクリーン。車で走ると、日照を受ける斜面、影になる斜面などが明確に見てとれます。2024年からゾーニングシステムのUGAs(※)が採用されましたが、まさに区分けにそれらが反映されているのがわかります。
林 たとえばピノ・ネロの銘醸地でマッツォンという区画がありますが、UGAsの地図をみると、銘醸地たるゆえんが理解できます。最近ネロもアルト・アディジェらしい個性が確立してきましたね。
永瀬 日本は、うま味につながるアミノ酸やコハク酸などがしっかりしているワインが好きな人が多い。酸とミネラル感を携えたアルト・アディジェのワインは、日本人の好みにも合っていると思います。
林 アルト・アディジェは自治州で、文化も独特。興味深い産地です。
永瀬 誰もが周知している産地とはまだ言えないけれど、もともとドイツ語圏で、食文化もいわゆるイタリアンとは違う。そこが逆に世界のワインを満遍なく飲んでいる人たちにも受け入れやすいんじゃないかな。酸とミネラル感があり、果実のニュアンスが前面に出過ぎないところは、ペアリングワインとしても秀逸です。
林 個人的にペアリングで追求したいのは、ゲヴュルツトラミネール。現地の人の話では、協同組合、ワイナリーいずれも近年は料理に合わせやすいスタイルにシフトしているそう。ドライな味わいが主流となってきていて、お客様に出しても、反応がとてもいいんです。
永瀬 ゲヴュルツトラミネールは和食にも使えますよ。「焼いたアユの内臓もおいしい」という感覚は日本人特有じゃないかと思うんですが、ほろ苦さとうま味のある珍味的なものにゲヴュルツを合わせるのは、海外ではあまり見かけない独自性あるペアリングかと。魚の干物にラグラインとかもおもしろい。
林 なるほど!爽やかな香り漂うミューラー・トゥルガウやケルナーにも、和食はよさそうですよね。ケルナーには天ぷらかな?
永瀬 アルト・アディジェは日照量が多いから、ケルナーはクリスピーなテクスチャーの中にオイリーさも併せもつワインになる。この構成はまさに天ぷらと同じ。天ぷら屋さんには、DOCアルト・アディジェイサルコのケルナーをぜひおすすめしたい!和食では、最後にアクセントでユズや山椒など香りを足しますが、そこをワインに置き換える。清涼感あるスパイシーな香りと華やかさをもったワイン、ただし果実が強すぎるのはダメ。となると、まさにアルト・アディジェなんですよ。
林 スキアーヴァもいい。単一だとそれほど力強さやストラクチャーが出ないけれど、この品種ならではのフレッシュ感とほんのりとしたスパイシーさを味わうことが、おいしく飲む秘訣かと思います。
永瀬 スキアーヴァは、色は薄くとも酸やタンニンがあって、果実は強すぎないけど奥行きがあり熟成もする。ちょっとネッビオーロ的かな。
林 現地で日常的に飲まれているのはスキアーヴァ。1980年代から白ワインの生産が増えブドウ樹の植え替えが進んだわけで、じつは白ワインの歴史は浅い。だから赤・白ワインともに、世界各地の料理とフレキシブルに合わせていこう、という意識が現地にもあるように思います。最近は、アジア料理とよく合う、と話す生産者が多い。
永瀬 ここ数年、地域ランキングの「アジアのベストレストラン50」で上位に挙がる店にアジアンイノべーティヴが増えている。いまや、世界のトップに君臨する料理にオリエンタルスパイスは欠かせない。アジアの料理には「スパイスが食文化に根付くアルト・アディジェ産のワインも不可欠だ!」、という構図を打ち出していけば、アルト・アディジェのワインがさらに注目されるのではないかと思います。
※UGAs(追加地理的単位)
2024年10月、イタリア農業省より承認されたアルト・アディジェワインのゾーニングシステム。アルト・アディジェDOC内に、86の追加地理的単位が導入された。ワインラベルにUGAを記載できるのは、各ゾーンで認定された品種のみ。

永瀬 喜洋/Yoshihiro Nagase
クアトロヴィーニ代表取締役。各種レストランの飲料アドバイザー、セミナー講師など幅広く活躍。第8回JETカップ優勝、駐日イタリア大使館公認イタリアワイン大使。

林 圭介/Keisuke Hayashi
Sala Degustazioneオーナー。シニアソムリエ。日本で働いた後、約3年間、北イタリア各地のレストランで研鑽を積みながら数多くの生産者を巡る。2014年開業。

Sala Degustazioneは、イタリアの路地裏にある地元のワイン好きが集まるエノテカのよう。店では常時20種類以上のワインをグラス売りしている。イタリアワインに造詣が深いふたりの対談では、現地の話に花が咲いた。
「Sala Degustazione(サーラ デグスタツィオーネ)」
住所:東京都港区赤坂6-3-9
TEL:03-3583-0450
http://saladegustazione.com
Photo : Yosuke Owashi
Text : Etsuko Tsukamoto

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