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2026.06.15
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モエ・エ・シャンドン
王者が王者であり続ける理由

あと20年も待たずに創立300周年を迎えるモエ・エ・シャンドン。あらためていうまでもなく、シャンパーニュ最大のメゾンである。そのボリュームを誇りながら、卓越した品質をなぜ維持できるのか。来日した最高醸造責任者のブノワ・ゴエズが語る。

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20年にわたりモエ・エ・シャンドンの最高醸造責任者を務めるブノワ・ゴエズ。彼はメゾンの強みを「多様性を武器に質はもとより量も求め、つねに将来を見通し、先端技術への投資を怠らないこと」と語る。

その最大の武器となるのが広大なブドウ畑だ。1300ヘクタールの自社畑にパートナーシップを組む栽培農家の畑も含め、昨年はシャンパーニュ地方にある全319クリュのうち、その90パーセントにあたる282のクリュを網羅した。最良のブドウを生むクリュは年によって異なるが、持ち駒が多様であるほど最良のクリュを引き当てる確率は高い。ちなみに自社畑はすべてVDC、HVEの環境認証を取得している。

先端技術ではAI(人工知能)の可能性にも着目している。すでに圧搾センターでは光学式スキャンを導入。収穫後、運ばれてきたブドウをカメラで撮影し、その映像からブドウの熟度や病気の罹患についてAIが判断する。人間の目では再現性に誤差が生じることも、AIなら正確に判断し、学習もしていく。

「AIがシャンパーニュを造れるようにはならないが、ロジスティックスやブドウの分析データに基づく予想など、ほかにも役立つ分野がある」とブノワは言う。

そうした強みの恩恵をもっとも享受するのが「モエ アンペリアル」だ。つねに最優先に置かれるメゾンのアイコンであり、あらゆるクリュのワインがアッサンブラージュされる可能性をもつ。1869年の発売以来、世界中で愛され、普遍のスタイルを貫くモエ アンペリアル。しかしじつのところ、時代に応じて細かなチューニングが施されている。

近年はブドウ自体の熟度が上がったうえ、リザーヴワインの比率が30~40パーセントにも高まり、瓶内熟成期間も2、3年に伸びた。その結果、ドザージュに頼らずとも充分調和のとれた味わいとなり、添加される糖分は減少傾向。今年6月の出荷から5グラムに減らすという。

「これには消費者の嗜好の変化も大きい。重いワインは敬遠され、フレッシュで軽やか、フィネスの感じられる味わいが喜ばれる」とブノワ。

一方、明確な個性をもちカリスマが感じられる年に、ビスポークで造られるのが単一収穫年の「グラン ヴィンテージ」。現行は2016年だ。

春の遅霜にベト病やウドン粉病。夏の雷雨に干ばつと、栽培農家にとっては散々な年。しかし、農家の苦労に報いるため、ブノワたちメゾンの醸造チームはブドウを厳しく選び、16年のグラン ヴィンテージを造り上げた。このような奇跡が叶ったのも、メゾンが多様なクリュにアクセス可能であるがゆえである。

「果実とイーストのバランスがとれ、砂浜に打ち付ける波のようにシームレス」と、16年をブノワは評す。

そして、280年におよぶメゾンの叡智を結集し、オートクチュールに倣ってオートエノロジーを駆使して誕生したキュヴェが「コレクション アンペリアル」である。

その核となるのが3つの異なる熟成法だ。このキュヴェには7つの優れた年のワインがアッサンブラージュされるが、もっとも若い13年はフレッシュな果実感のためにステンレスタンクで、12年、10年、08年、06年、00年の5ヴィンテージはテクスチャーを与えるためオーク樽で熟成。さらに第3のアロマを加えるため、ガラス瓶で澱とともに熟成させた04年のグラン ヴィンテージがアッサンブラージュされる。

ティラージュ後の熟成期間はおよそ10年。メゾン始まって以来のブリュット・ナチュールである。「当初から目指したわけではない。試行錯誤の結果、このキュヴェの真の姿を表現するのがドザージュ・ゼロだった」とブノワ。「マルチレイヤーの最高傑作」と語る。

シャンパーニュ随一のスケールメリットを生かし、長い歴史の中でノウハウを積み上げ、環境に負荷をかけることなく、最先端の技術もいとわないモエ・エ・シャンドン。これぞ王道である。

Moët Impérial
モエ アンペリアル(左)

1869年、フランス皇帝ナポレオン1世の生誕100周年を記念して登場した、メゾンの象徴。果実と柑橘に複雑さが調和。即座に悦びが得られる寛容な味わい。モードにたとえるなら、誰も一着はもっているブラックスーツやリトルブラックドレスのような存在と、ブノワは言う。

Grand Vintage 2016
グラン ヴィンテージ 2016(中)

明確な個性をもつ年にのみ造られる単一収穫年のキュヴェ。16年の品種構成はシャルドネ46%、ピノ・ノワール34%、ムニエ18%。ピノ・ノワールが44%にも達した15年とは異なり、その年に合わせたビスポークな造りだ。「嵐の後の静寂と優雅な安らぎ」を表現した。

Collection Impériale
コレクション アンペリアル クリエイション No.1(右)

モードのオートクチュール同様、最高の素材を用い、洗練されたノウハウを駆使し、高い創造性をもって、そして長い時間をかけて造られた。創業した1743年から今日に至る集大成であり、メゾンではオートエノロジーと呼ぶ。何層にも折り重なるフレーバーがすばらしい。

Benoît Gouez
ブノワ・ゴエズ

1970年、ブルターニュ地方の出身。モンペリエの国立高等農学院を卒業後、カリフォルニア、ニュージーランド、オーストラリアのワイナリーで研鑽を積む。南仏のワイナリーに勤務中、モエ・エ・シャンドンの前最高醸造責任者と出会い、99年、モエ・エ・シャンドンに入社。2005年、35歳の若さで最高醸造責任者に就任した。

[お問い合わせ先]
MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社
TEL:03-5217-9733
https://www.mhdkk.com/

Text : Tadyuki Yanagi