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2018.10.23
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「東御ワインフェスタ 2018」現地リポート Vol.2 生産者たちの思い

長野県東御市で毎年9月の恒例行事となった「東御ワインフェスタ 2018」。千曲川ワインバレーに広がる全国屈指のワインシティとして注目を集める、東御市最大のワインの祭典の盛り上がりぶりをリポート。

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2018年9月1日(土)、長野県東御市のJA信州うえだ特設会場。午前中に激しく降っていた雨も正午近くには上がり、続々と人が集まってくる。男性客や女性のグループ、また家族連れの姿も目につく。長野ワインの祭典「東御ワインフェスタ 2018」の開幕だ。東御市とその近郊のワイナリーやヴィンヤード、地元の飲食店が出店し、ワインとおつまみを楽しむことができるこのイベントは、今年で7回目を迎える。

(左から)玉村豊男実行委員長、ミマキエンジニアリング代表取締役会長 池田明さん、東御市副市長 田丸基廣さん、ヴァシレ・ブマコフ駐日モルドバ共和国大使、ルドミラ・ブマコフ大使夫人、通訳の大塚はるひ駐日カタール国大使夫人

オープニングセレモニーでは、東御ワインフェスタ実行委員長の玉村豊男さんが「ワインはおしゃべりしながら飲むもの。この地域で造られた質の高いワインを飲みながら、大いに語り合い、楽しみましょう」と挨拶。続いて、協賛社のミマキエンジニアリング代表取締役会長 池田明さんが「我が社は精密機器の分野でグローバルに評価を得ている。長野県はワイン用ブドウのシェア全国一、これからは世界に向けて東御のワインを発信してほしい」と述べた。

また、2020年東京オリンピック・パラリンピックのホストタウンである東御市の相手国モルドバ共和国のヴァシレ・ブマコフ駐日大使と、東御市副市長 田丸基廣さんがそれぞれ互いに敬意を評し、ギフトを交換。モルドバ産の地場品種を使用したワインと、東御市名産の巨峰がそれぞれへ贈られた。

「東御ワインフェスタ 2018」では、東御、小諸、上田にある16のワイナリーとヴィンヤード、さらに20超の地元飲食店や団体がブースを出展。各ブースに生産者が立ち、ワインをサービスしてくれる。こうして生産者とふれあえるのもローカルのフェスならではの大きな魅力だ。

ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー代表取締役社長兼栽培醸造責任者の小西超(こにし・とおる)さん

生産者と実行委員長・玉村豊男さんのお膝元、ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー(以下ヴィラデスト)代表取締役社長の小西超さんの姿も。ヴィラデストとアルカンヴィーニュの栽培醸造責任者でもある小西さんは、千曲川ワインアカデミーで新規参入者へワイン造りの指導を行ない、醸造施設をもたない生産者の委託醸造も請け負う。東御のワイン造りにおける水先案内人として、生産者たちからの信望も厚い。

ヴィラデストはシャルドネ ヴィニュロンズ リザーブ 2017、メルロー ヴィニュロンズ リザーブ 2016、ピノ・ノワール 2016、タザワ メルロー 2016などを出品

東御の産地形成を考え、玉村豊男さんとともに、長野ワインの普及と発展のために寄与して来た小西さん。

「20年前はヴィラデストしかなかった東御に、いまは7軒のワイナリーができ、ブドウ栽培農家も増えてこのようなお祭りもできるようになったのは本当にうれしいことです。ワイン産地としての知名度はまだまだかもしれませんが、ここにはオープンで自由な雰囲気があります。増えた仲間たちと切磋琢磨し合い、さらに盛り上げて、日本を代表するような産地になればいいですね」と語った。

リュードヴァン代表取締役 小山英明(こやま・ひであき)さん(写真左から2人目)

荒廃したりんご農園の跡地を耕作してブドウを植え、2008年にワイナリーを立ち上げた小山英明さん。この地にやがて多くのワイナリーやオーベルジュが建ち並ぶ場所になるようにとの願いを込めて、リュードヴァン(フランス語で「ワイン通り」)と名付けた。

それから10年がすぎ、こうして大規模なワインフェスを開催できるまでになった。が、小山さんの見ているところはもっと高次にある。この地の気候や風土というポテンシャルと、集まってくる人々の固く強い意志をもってすれば、東御はさらに質の高いものを産出できるエリアになるというのが持論。ゆえに委託醸造を引き受ける栽培農家のワイン造りも、活発な意見交換を行ない、詳細にアドバイスしながら全力でサポートする。

この日提供されたワインはシードルも含めなんと12種類、リュードヴァンのほぼ全アイテムというラインナップ。

ブースにはリュードヴァンのワインがほぼ全種ずらりと並び、ファンにはたまらない光景。店頭では品切れになっているものも多々あるが、それらもこのフェスのためにキープしてあるのだそう。過酷な雹害に遭った2015年のピノ・ノワールを用いた新商品のロゼ、クレーレ 2016もお目見え。多くのワインに親しんでほしいと、利益ものせない価格で提供しているというから、素通りできないブースのひとつだ。

はすみふぁーむ代表 蓮見喜昭(はすみ・よしあき)さん

はすみふぁーむは、ヴィラデストやリュードヴァンとともに初回からフェスに参加していた、東御市でも古参のワイナリー。代表の蓮見喜昭さんは「このイベントは地元の人たちや近所のお客さんと触れ合えるのがいい。東御の人が他の地域の人に自慢したくなるようなワインを造っていきたいですね」と、地元のファンを増やすことの大切さに触れた。

はすみふぁーむ (左から)リリースされたばかりの2017ヴィンテージのメルロとシャルドネ

顔見知りの女性客が通りがかり「こんにちは! 今日はこの樽生がおすすめですから、飲んでいってください」と声をかける蓮見さん。地元開催ならではのフェスの光景だ。この日は、定評がある甲州やシャルドネ、メルロなどのほか、上田にあるカフェでも提供している樽生ナイアガラ・ドライ、コンコード・ドライを販売。ブースを訪れたゲストは、サーバからまるで生ビールのように注がれるワインのフレッシュな味わいを楽しむことができた。

ドメーヌ・ナカジマのオーナー 中島豊(なかじま・ゆたか)さん(右)

東御市で4つめにできたワイナリー、ドメーヌ・ナカジマ。東京でシステム・エンジニアとして勤務していた中島豊さんがワイン特区制度を利用し、東御の高台に畑を開墾した。

2018年のブドウの出来について尋ねると「収穫まであと1カ月くらいですが、今年は5月、6月の気候もよく、これまでいい感じに仕上がっています。あとは太陽の力。ここから先は陽の光が仕上げにもっていってくれます」と話した。

ドメーヌ・ナカジマ (左から)ペティアン・ナチュール・ロゼ 2017、主力品種のカベルネ・フラン 2016

ブースにはマスター・オブ・ワインのジャスパー・モリスが賞賛した淡い色合いが美しいカベルネ・フランやメルロ、ペティアンが並ぶ。シュナン・ブランは数時間で売り切れるほどの人気だ。

「中島さんのワインの優しい味わいが好き。畑仕事が丁寧で、さまざまやり方を熱心に試みているんです。彼のブドウに対する思いが、ワインに表現されていると思いますね」と言うのは、ブースを訪れた信州湯の丸山麓農場の関泰秀さん。同じく東御で農業を営む同志として、中島さんの仕事ぶりを礼賛。

「東御ワインフェスタ 2018」では、まだ生産本数の多くない新規のワイナリー、委託醸造でワインを造る生産者なども多く出店し、それらを目当てに訪れるゲストも。続くvol.3では、そんなニューフェイスを紹介する。

Photo:Kentaro Ishibashi Text : Hiromi Tani