
オーストリアワイン見本市「ヴィーヴィヌム 2026」
2年に一度、オーストリアの首都ウィーンで行なわれる国内最大規模のワイン見本市。国際市場での支持をますます広げる同国のワインが、一堂に会する貴重な機会だ。多くの国からの来場者を迎えたイベントについてリポートする。
プレミアム化への
傾向がより明確に
オーストリアは、プレミアムワイン市場での存在感をさらに高めようとしている。このことを、今回の「ヴィーヴィヌム」では強く感じた。
5月16日から18日まで、ウィーンのホーフブルク王宮を舞台に行なわれた見本市は、出展者数、入場者数ともに例年とほぼ変わらぬ規模で、大きなにぎわいを見せた。出展者数は550。国内からの出展が9割を占めており、同国のワイン業界にとってビジネス拡大のための重要な場となっていることがわかる。

ウィーン市内の中心部で、歴史的建造物を使って行なわれるヴィーヴィヌム(VieVinum)。華やかな雰囲気は、
この見本市に独特の魅力を与えている。(左)初日の前夜に行なわれたウェルカムパーティは、オーストリア応用美術博物館にて。
1871年建設時の姿をそのまま残している。(右)ニーダーエステライヒ宮殿も試飲会場に。1513年建設。もと州議会場だった場所だ。
来場者は約1万5000人で、うち約1000人は国際戦略に力を入れるオーストリアワインマーケティング協会による招待。50カ国以上から選ばれた、MWやマスター・ソムリエを含むバイヤー、ジャーナリストだ。国内市場はすでに成熟しており、海外市場のシェア拡大は絶対的な使命である。同協会のCEOクリス・ヨークは、初日に行なわれたプレス・コンフェランスにおいても、輸出市場の重要性について触れた。
オーストリアワインの〝フレッシュで軽やかな白〞というイメージは、すでに広く認知されている。しかし今回の見本市では、その先を見据えたプレミアム化が、強く印象に残った。
会場では、長期熟成に耐えるグリューナー・ヴェルトリーナー、リースリングなどの白や、ピノ・ノワールやブラウフレンキッシュなどの赤の品質向上に取り組む生産者に多く出会い、気候変動によって変わる栽培および醸造の可能性を、積極的に生かそうとする姿勢がうかがえた。また、産地ごとに歴史やテロワールを詳しく紹介するマスタークラスが複数行なわれ、高い品質を文化的・歴史的な背景から裏付ける役割を果たし、プレミアムワインとしての価値を伝える重要な機会となっていた。

(左)ブラウフレンキッシュのワインを9カ国から集めたブース「ユナイテッド・ネーションズ・オブ・ブラウフレンキッシュ」では、
87生産者による103銘柄がずらりと並んだ。中央ヨーロッパのワイン見本市ならではの、興味深い展示内容だ。
(右)イタリア、ポーランドでもブラウフレンキッシュが造られているのには驚いた。なお、イタリアでのシノニムはフランコニア。

フライトテイスティングには、オーストリア航空のCAも参加。
空の上のソムリエは、地上でも大活躍。テキパキとしたサービスと笑顔は、さすがプロ。
土地の可能性をひもとく
マスタークラス
会期中には、公式プログラム「スクール・オブ・ワイン」として、20のマスタークラスが開かれた。ほとんどのクラスは予約で満員。深い知識を得られる場の需要の高さがうかがえる。
産地主催のクラスが大半で、筆者はウィーン、テルメンレギオン、カルヌントゥムのクラスに参加した。ウィーンは「60年、ウィーンワインの歴史」、テルメンレギオンは「テルメンレギオンの70年、ワイン愛好者の時間の旅」と、どちらも産地の長い歴史を伝える内容。各生産者から歴史、テロワール、畑の個性について詳しく聞きながら、同時に試飲を行なった。ともに単一畑のワインを多く取り上げていたのと、非常に古いヴィンテージをラインナップしていたことが印象的。
いちばん古いものでは、ウィーンは1964年のブラウブルグンダー、テルメンレギオンは68年の地場品種のアウスレーゼが提供された。2本ともナチュラルな飲み心地で、フレッシュな酸をもち、土地の生むワインの熟成可能性の高さを強く表していた。

(上)ウィーンのセミナーでは8生産者による、1964年から2018年までの16ワインを試飲。ヴィーナー・ゲミシュター・サッツ、
単一品種の白、赤をくまなく網羅。(右)テルメンレギオンのセミナーは、品種別の5フライトで18ワインを試飲。
地場品種のツィアファンドラーとロートギプフラーによる甘口ワインは、力強い酸と優美な甘さに歴史の深みを感じた。
過去のウィーンには繊細な赤を造る文化があり、またテルメンレギオンでは伝統的に優れた甘口が造られていた。80年代以降の技術向上と品質追求の前にあった、土地そのものの表現がみられるこれらのワインには、オーストリアワインの進むべき道が示されていると感じた。

カルヌントゥムのクラスは、カーロ・マウアーMWが担当。参加者は会場にて専用アプリを入手。
ブラインドでテイスティングし、アプリで答えを記入しながら、フライトが進められた。
緊張感あふれる楽しい試み。
公式プログラム外では、ヴァッハウのF.X.ピヒラーによる「ヴァッハウ ピノ・ノワール」の発表が大きな話題となった。白の名手として知られるワイナリーが、あえてピノ・ノワールに挑戦した意味は大きい。ブルゴーニュの愛好家である当主のルーカスは、「ヴァッハウでも国際品質の卓越したピノ・ノワールが造れることを証明したかった」という。

F.X.ピヒラーによるピノ・ノワールのマスタークラスでは、当主ルーカス・ピヒラーとジャーナリストのウィリー・バランジュクが登壇。
ルーカスは、コート・ド・ニュイの偉大なワインに影響を受けたと語った。ファーストヴィンテージは2022年で、
23年とバレルサンプルの24年も試飲。22年と23年は、今年9月に販売開始予定。販売数は約2000本。
気候変動もこの挑戦に力を貸した。冷涼なヴァッハウは、いまやクオリティを備えたピノ・ノワールも育てられる環境になったのだ。選ばれた畑は55アールで、ドナウ川左岸の5カ所に分散。畑ごとに収穫、発酵し、その後ブレンドされる。豊かな果実味の奥にある冷涼感、そして凛とした酸。産地を知りつくす老舗ワイナリーが、ヴァッハウというテロワールの新たな未来を開拓したといえよう。
オーガニックやビオディナミなど、サステイナブルな栽培や環境への配慮が多くの生産者にすでに定着していることにも、大きな可能性を感じた。今回は、ノンアルコール・オルタナティブの需要に応えるエリア「ゾーン・ゼロ」も登場。35生産者が参加し、約80種のノンアルコールワインを紹介。来場者の関心を集めていた。

ヴィーニンガーの当主であり、ÖTWウィーンの会長をつとめるフリッツ・ヴィーニンガーが、
産地の概要と地区ごとの個性を解説。ドナウ川をはさんで590haの生産地区が広がっている。
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■ÖTWが考える
「偉大な畑」の未来
ヴィーヴィヌムで行なわれたÖTWプレスコンフェランス。現在の取り組み、そして今後について、独自に行なったインタビューで得た情報も交えてお伝えする。
未来を見据えた
「生きた格付け」
1991年にカンプタールとクレムスタールの生産者により始まったÖTW(ÖsterreichischeTraditionsweingüter=オーストリア伝統的ワイナリー協会)。35年を経た現在、前出の2地域に加え、トライゼンタール、ヴァーグラム、カルヌントゥム、ウィーン、テルメンレギオン、ヴァインフィアテルの91生産者が加盟している。総畑面積は約ヘクタールで、オーストリアワインの総畑面積の8パーセントに相当する。

当日はÖTW代表のミヒャエル・モースブルッガー(右)と事務局長のミヒャエル・ティシュラー・ツィマーマンが登壇。
モースブルッガーは、この日に代表の辞任を発表した。後任は9月初旬に発表予定。
ÖTW設立の目的は、この国の最高級の畑の価値を伝えること。オーストリアのDAC規制ではゲビーツヴァイン(地方名ワイン)、オルツヴァイン(村名ワイン)、リーデンヴァイン(単一畑ワイン)の3段階の分類はあるが、単一畑の中での分類はなかった。単一畑の数はじつに4300。消費者が優れたワインにアクセスしやすくするためには、それぞれの畑の評価が明確に示されるべき。
この考えから、ÖTWは独自の評価システムを構築し、単一畑の中にさらにグロース・ラーゲ(特級)、エアステ・ラーゲ(一級)の格付けを設定した。現在、ÖTW認定のエアステ・ラーゲは145。評価基準が厳しく、認定に5〜10年の時間を要するグロース・ラーゲについては、現時点では導入時期は確定していない。
2023年、ÖTWの単一畑評価システムが、起草中のオーストリアワイン法へ採用されることが決定。今後、ワイン法にグロース・ラーゲとエアステ・ラーゲの2段階の格付けシステムが取り入れられていくことになった。ÖTW会長モースブルッガーは、国家ワイン委員会の諮問委員として、現在も助言を行なっている。
ÖTWの格付けは、歴史的評価のみで決められているのではない。事務局長のミヒャエル・ティシュラー・ツィマーマンによると、評価基準には「歴史的意義、地質・気候・日照条件の均一性、市場での存在感、価格、流通状況、社内評価、長期的な継続性など」が含まれる。認定は固定されたものではない。気候変動などにより、ブドウ畑の品質が長期間にわたり著しく変化した場合には、格付けの認定を見直す可能性もあるという。
この格付けは〝生きている〞のだ。「気候変動は、ブドウ畑の個性などに変化をもたらす可能性がありますが、格付けは短期的サイクルに振り回されるべきではありません。私たちは多くの収穫年のデータを元に、畑とワインとの関係性を継続的に再評価しています」。

ÖTW主催のマグナムボトルパーティにて。ホーフケレライ・リヒテンシュタインのワインメーカー、
ヨーゼフ・シュトゥムフォル自らゼクトをサーブ。

会期中には、ÖTWに加盟するワイナリーがホストをつとめるディナーがウィーン各所で行なわれた。
筆者はマルクス・フーバーとフィリップ・グラッスルのディナーに参加。
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■ヴィーヴィヌムで出合った
おすすめワイナリー
出展ワイナリーは550軒。老舗から新進気鋭、大手から家族経営まで、さまざまな出展者がいる中、優れたワイナリーを求めて会場をひたすら回った。印象に残った4軒をピックアップ。
〔Winery1〕
Esterházy
エスターハージー

ワイナリーディレクターのヴォルフガング・へーヴァルト(写真右)と
輸出セールス担当のニナ・ウェスト。
1758年創業。伝統にとどまらず進化を続ける、ライタベルクを代表するワイナリー。 65haに21の畑を所有。すべての畑は醸造施設から10km以内に位置する。ワイナリーが所有する森からオーク樽の材料を調達するなど、テロワールの表現を最重要と考える一方、醸造過程では世界最大級のコンクリートエッグ「スーパーエッグ」を使用するなど、現代的技術も積極的に取り入れている。
白、赤ともに上級キュヴェは長期熟成を念頭においており、クラシックな方向性ながらもピュアな果実味が魅力。2019年より有機栽培に転向。数年前から、ペットナット、オレンジワイン、野生酵母発酵など、新たなアイディアに挑戦する「プロジェクトワイン」も手がける。

左から、リート・オーバラー・ヴァルト・ピノ・ブラン 2023と
リート・ラメール・シャルドネ 2023。ライタベルクDAC。
〔Winery2〕
Ebner-Ebenauer
エブナー・エベナウアー

当主のマリオンとマンフレートのエブナー・エベナウアー夫妻。
ふたりは醸造学校で出会った。
ヴァインフィアテルのエブナー・エベナウアーのワインには、高い緊張感と自然な飲み心地が同居している。ともに醸造家であるマリオンとマンフレートの夫妻は、代々続く家族ワイナリーを受け継ぎ、2006年に現在のワイナリーを設立した。畑は18haで、現在ビオディナミに転換中。ブドウは、すべて手摘み収穫。醸造中の介入は最低限に抑えられている。畑の平均樹齢は30年以上で、もっとも古いブドウは70年以上。地場品種のみならず、シャルドネ、ピノ・ノワールも、祖父母による植樹のため、すでに古樹だ。
シャンパーニュが大好きだというふたりが造る瓶内二次発酵のゼクトは、まっすぐなミネラルと繊細な泡立ち、長い余韻が印象的である。

左からロートリシェンヌ ゼロ・ドザージュ 2018。
グリューナー・ヴェルトリーナー リート・ヘルマンシャッハーン 2024。
〔Winery3〕
Familie Auer
ファミリエ・アウアー

ルーカスとマティアスの兄弟。
テルメンレギオンは1985年のワイン法改正により、異なるワイン文化をもつ2地区が統合されてできた地域。北部は白、南部は赤の品質の高さで知られる。ファミリエ・アウアーは、南部タッテンドルフに拠点を置く家族経営の生産者。北部の歴史的銘醸地グンポルツキルヒェンにも畑をもち、合計で23haを所有。オーガニック栽培を長年続けており、土壌の健全さと生物多様性などに注力する。
白、赤ともに優れたワインを造るが、ブドウ生産量の7割を占めるのはピノ・ノワールとサンクト・ラウレント。試飲した2キュヴェは、しっかりとした構成とまとまりがありながらも、口当たりは穏やかで優しい飲み心地。食事とともに杯を重ねたくなるワインだ。

左から、ピノ・ノワール リート・ホルツシュプーア・タッテンドルフ 2024、
サンクト・ラウレント リート・ホルツシュプーア・タッテンドルフ 2023。
ともにÖTWのエアステ・ラーゲ。
〔Winery4〕
Philipp Grassl
フィリップ・グラッスル

当主のフィリップ・グラッスル。
カルヌントゥムの赤は濃くてパワフル。フィリップ・グラッスルのワインは、そんなイメージを覆す。豊かな果実味と構成がありつつ、フレッシュでエレガント、そしてシリアスだ。
現当主のフィリップは3代目。ゲッテルスブルンにあり、約24haの畑を所有する。赤ワインにフォーカスしており、地場品種のツヴァイゲルトとサンクト・ラウレントをおもに生産。メルロなどの国際品種、ヴェルシュリースリングなど白品種も栽培している。
試飲したキュヴェは赤のみ。どれも丁寧で抑制の効いた抽出が感じられ、ボリュームがありながらも押しが強すぎず、落ち着きを保っていた。料理に寄り添うガストロノミックなワインであることも、特筆に値する。

左から、リート・シュッテンベルク 2021はツヴァイゲルト100%。
レゼルヴ 2017は、メルロ主体、ブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルトのブレンドで、良年のみ生産。
■Infomation
▶オーストリアワイン試飲会 2026
日時:2026年10月27日(火) 11:00-17:00
会場:八芳園 2F 木音/KIOTO(東京都港区白金台1-1-1)
対象:業界関係者(参加費無料)
https://www.advantageaustria.org/jp/events/Austrian_Wine_Tasting_2026.ja.html

▶次回のヴィーヴィヌムは、ウィーンにて2028年5月13日~15日開催予定。

Photo : Eriko Yoshida, Anna Stöcher, Eva Kelety
Text : Eriko Yoshida

![[ワイナート]The Magazine for Wine Lovers](https://winart.jp/winart_kanri/file/img/common/img_header_winart.png)























