• Top
  • Feature
  • 青森県が誇るリンゴとシードル弘前の未来へ向け、意見…
2023.03.03
feature

青森県が誇るリンゴとシードル
弘前の未来へ向け、意見交換会を開催

リンゴ生産量日本一の青森県では、近年シードルも急増中だ。3年前からシードル造りに挑む新潟のカーブドッチ ワイナリー醸造長の掛川史人と、シードルに興味をもつ東京・白金のイタリアン「ロッツォ・シチリア」の阿部努が、1月上旬、青森県弘前市を視察。これに合わせ、現地のシードル関係者との意見交換会が行なわれた。

  • facebook
  • twitter
  • line


会場となったのは、弘前れんが倉庫美術館に付帯する「CAFE & RESTAURANT BRICK」。店内にはA-FACTORY 弘前吉野町シードル工房を併設。また、ショップには数多くの青森県産シードルが並んでいる。

意見交換会の参加者は、弘前市から、シードル生産者の弘前シードル工房「kimori」高橋哲史(弘前シードル協会会長)、ニッカウヰスキー弘前工場 工場長 瀧瀬生、A-FACTORY 平岡和也、タムラファーム 田村昌丈。シードル生産者で、料理人でもある「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」 笹森通彰。酒販店「ハチドリ酒店」を営む弘前銘醸 加藤宏幸。シードル&カフェ「ポム・マルシェ」を営む中山智と未央夫妻。リンゴ農家の相馬克彦りんご園 相馬澄佳。地域連携DMO Clan PEONY津軽 渡邊幹人。

ここに新潟のカーブドッチ ワイナリー 醸造長 掛川史人と東京・白金のイタリアン「ロッツォ・シチリア」ソムリエ 阿部努も加わり、開会となった。

――シードル造りを通して掛川史人が感じたこと&弘前のシードル生産者やリンゴ農家がいま、重要視していることとは?

掛川 そもそもシードル造りは初めてでしたが、試行錯誤を続ける中で気づきもたくさんありました。たとえば、6月に長野のリンゴ農家さんを訪れたとき、園地に摘果したリンゴがいっぱい落ちていたんです。食べてみたら、タンニン質が強く、酸味があっておいしかった。偶然出会った摘果したリンゴの可能性を畑の中で感じました。

参考:Winart連載第12回「ゼロから挑むシードル造り Season2 新たな挑戦のはじまり 掛川史人、リンゴ農家を訪ねる」
https://winart.jp/column/15995

一方で、実際に摘果したリンゴを使いたいと思ってリンゴと向き合ったとき、農薬散布の時期なども考えなくてはいけないなど、さまざまな課題も見えてきました。

髙橋 弘前のシードル生産者達はいま、シードル造り以前に、リンゴ栽培の存続をいちばんに考えています。リンゴ栽培の後継者問題の解決策のひとつとして、シードル造りがあると思っています。

平岡 A-Factoryのシードル造りは、リンゴ生産量日本一の青森県でリンゴの付加価値をあげよう、という発想から始まった事業なんです。高橋さんがお話しされたように、最近はシードルの原料であるリンゴが、いつまで手に入るかわからないという話題が頻繁に出るようになりました。

実家はリンゴ農家で、隣のリンゴ農家は今年で辞める、との話も聞いています。シードルはあくまでもリンゴありきなので、リンゴ農家を守っていかなければならない、ということを切実に感じています。

相馬 私はリンゴ農家です。スタッフの平均年齢は75歳くらい。80歳すぎたおじいちゃんが脚立を登って作業をしているんです。体の不調で来られない日が続く→作業が遅れる→手が回らない、という連鎖が起きるなど人手不足がいちばんの問題です。

――現場での問題点を解決するために、できることとは?

渡邊 地域連携DMO Clan PEONY津軽では津軽エリア内でのさまざまなアクティビティや体験コンテンツを提供しています。お客様からはリンゴ畑に行ってみたい、という要望をいただいています。

現在我々は、農家さんと交流、継続的な関係性を構築し、リンゴも買ってもらえる、というように、単なる農園訪問とは一線を画した体験の提案を実践しており、今後も観光と結びつけながらリンゴ産業を盛り上げていきたいと思っています。

瀧瀬 ニッカウヰスキーでは、弘前市役所からお話をいただき、3年前からリンゴ農家さん支援のため収穫のお手伝いをさせていただいています。自分達でシードルの原料であるリンゴを収穫することでモチベーションアップにもつながるだろう、というところからのスタートでしたが、昨年はグループ会社のアサヒビールの参加も得て、総勢40人くらいでお手伝いをさせていただきました。今後も地域のリンゴ産業に関わる一員として、さまざまな活動を続けていきたいと思っています。

加藤 弘前銘醸が営む小売店「ハチドリ酒店」は、角打ちというスタイルで青森の地酒とシードルを紹介しています。シードルを飲んだことがない方が少なくないので、説明のしがいがあります。

背景をお話ししたり、生産者の方々から直接お話いただくことで、お客様も興味をもってくださる。ここから波及して生産者の方々と連携し、気軽にリンゴ農家のお手伝いができるようになるとよいですね。

田村 タムラファームはいま、弘前市役所と連携して、小学生に1年を通してリンゴ栽培体験をしてもらっています。木に印をつけて1本ずつ子どもたちに託しているのですが、みんな世界一おいしいリンゴを作ろうと、摘花、葉取り、玉回しなど、僕らと同じ実際の作業を頑張ってくれているんです。その姿がかわいくて。

事前に連絡をいただければ一般の方も作業体験ができるような仕組みが理想ですが、弊社ではまだそこまでの体制がなく、実現できていないのが現状です。

――シードルを普及させるために、今後進めていきたいこととは?

中山(智) 東京から弘前へ移住した2年前、地元でのシードル消費がまだ少ないように感じました。シードルを楽しむ文化がもっと広まれば、地域経済の活性化=シードルの普及にもつながるのではないかと考えました。

そこで、大学生にシードルの楽しみ方を伝えることにしました。在学中にいろいろな体験を通して弘前のシードルに出会った彼らは、就職を機に巣立ってどこに住もうとも「シードルの伝道者」として、弘前のシードルを盛り上げる人になってくれると信じています。

中山(未央) 東京に住んでいたとき、ボランティアに参加した長野のワイナリーで、シードル造りを体験。すっかりファンになり、そのシードルを購入したくなりました。弘前でも、こうした仕掛けをしたいと考えています。

また「お父さんがテレビを見ながらシードルを飲んでいて、自然と子供がシードルの存在を知る」というような弘前のシードル文化が育てばいいなと思っています。

掛川 弘前には「シードル祭り」みたいなのはあるんですか? 酒のフェス型イベントって爆発的な集客力をもっていて、新潟でもすごいんですよ。祭り化して認知度を上げる、ということもひとつの方法ですね。

高橋 コロナ禍以前には、弘前市と青森市でさまざまな銘柄の飲み比べができるイベントをやっていました。2022年9月には、芝生広場でのイベントを開催し好評でした。「昼間にアウトドアで楽しむシードル」としてイベント含めて、さまざまな挑戦をしていきたいです。

――青森のシードルのこれからについて。

笹森 僕はワインも造っていて、日本のワインで世界に打って出る、というのは正直、なかなかハードルが高い。でも弘前のシードルは、世界で充分戦えると思います。だから僕は、シードルの輸出も視野に入れています。

生産者と行政が協力して、青森のシードルを輸出。海外で評価されればリンゴ農家もシードル生産者ももっと自分たちの「シードル」に誇りをもてるはず。青森県産リンゴの品質の高さはすでに海外でも周知の事実。これはシードルにとってアドバンテージなんです。

掛川 ある方に言われてすごく刺さったのが、「いま、掛川さんがすごくおいしいシードルを造ったら、それを待っていました! という人はどのくらいいますか?」という問いでした。おいしいものを造っても、まずは広く知ってもらわなくては買ってもらえない。これを受けて、3年目の2022年はワインラバー向けに750mℓ瓶と、クラフトビールラバー向けにホップを漬け込んだ330mℓビール瓶の2種類のシードルを造りました。近い将来は、タップが10個くらいあるクラフトビール店で、そのひとつがシードルになればいいなと思っています。

阿部 レストランでサービスをしていて、コロナ禍を機に、お客様が自由な発想でレストランでの飲食を楽しむようになったなと感じています。

たとえば、「グラスで泡をください」と言われたとき、以前はスパークリングワインを望まれる方が多かったけれど、シードルやイタリアのクラフトビールを提案すると「試してみようかな」と仰って下さる方が増えました。すごく興味をもってくださるし、ストーリーがあるとさらに受けがいい。飲食店において、お客様がシードルを受け入れやすくなっていると感じています。青森のシードルを店で扱うことにしていますが、今回皆さんに伺った話をすると、さらにお客様は飲みたくなるだろうなと思いました。

さまざまな課題と向き合いつつ、いろいろな立場の関係者からの提言も飛び交い、青森が誇るリンゴとシードルへの熱い想いが伝わり、弘前の未来に期待が持てる意見交換会となった。青森のシードル、今後の展開にも注目していきたい!

■座談会参加者

弘前シードル工房「kimori」オーナー
弘前シードル協会会長 高橋 哲史/Satoshi Takahashi
http://kimori-cidre.com/

ニッカウヰスキー 弘前工場
工場長 瀧瀬 生/Ikiru Takise
https://www.asahibeer.co.jp/cidre/

株式会社JR東日本青森商業開発 
開発企画室 室長(A-FACTORY) 平岡 和也/Kazuya Hiraoka
https://www.jre-abc.com/wp/afactory/index/

タムラファーム
常務取締役、営業部長 田村 昌丈/Masatake Tamura
http://tamurafarm.jp/

オステリア エノテカ ダ・サスィーノ
オーナーシェフ 笹森 通彰/Michiaki Sasamori
https://dasasino.com/

弘前銘醸株式会社
代表取締役社長 加藤 宏幸/Hiroyuki Kato
https://www.hirosakimeijo.com/

シードル&カフェ ポム・マルシェ
中山 智(右)、中山 未央(左)/Satoshi&Mio Nakayama
https://pommemarchehirosaki.com/

相馬克彦 りんご園
相馬 澄佳/Sayaka Souma
https://souma-apple.com/

一般社団法人 Clan PEONY(クランピオニー) 津軽
渡邊 幹人/Mikito Watanabe

▼「弘前シードルダイニング」予約ページ
https://widgets.bokun.io/online-sales/79b9260d-7166-4905-829d-3ada855ac770/experience/741402
▼青森県津軽地域観光情報サイト「Time Trip Tsugaru」
https://www.trip-tsugaru.com/

カーブドッチワイナリー
醸造長 掛川史人/Fumito Kakegawa
https://www.docci.com/

ロッツォ シチリア ROZZO SICILIA
ソムリエ 阿部 努/Tsutomu Abe
https://www.instagram.com/rozzo_sicilia/

Photo : Bungo Kimura
Text : Etsuko Tsukamoto